神聖国編 第12話 『人間とエルフ』
清らかな水が湧き、温かい太陽の光が差し込み、植物たちが自由に根を伸し、鳥の囀りがこだまする。まるで夢のように幻想的なこの地でジークとリアナはその者たちと相対した。
白い長髪に肌、尖った耳を持つこの世界で最も神に近しい種族、『エルフ』。
その一人であり、この種族をまとめる者、ミカエル・エルキメデス。
彼の優しく微笑む姿は美しくもどこか不気味で自分たちとは別の存在であることを突きつけられる。
「先ほどは私たちの同胞が迷惑をかけた。謝罪するよ」
ミカエルは浅く頭を下げ、謝罪した。整った顔立ちと長髪のせいでこのエルフが男性なのか、女性なのかはわからない。そして何よりその容姿は傾国ものだ。
「とんでもない。こちらも連絡もなしに訪れたことを謝罪します」
リアナは驚いた。あのジークが敬語を使っている。帝国でもかなりの立場であるジークがだ。だがそれと同時に実感する。ここは人類がいない土地、帝国の法律も、王族や貴族としての権限も、ここでは何の意味も持たないことを。
リアナは固唾を飲み、ミカエルに頭を下げた。
「そんなに畏まらなくてもいいよ。ほら、君たちも自己紹介を」
ミカエルが促すと先ほどのエルフが前に出て話し始めた。
「私の名はガブリエルだ。姓は無い」
「エルフたちには基本的に姓が無いのだよ。長老になった者だけが”エルキメデス”の姓を授かるのさ」
(これもこの地での文化なのだろう。貴族と平民のようなものなのか?)
文化の違いに戸惑いつつもリアナはあまり考えないようにした。
次に出てきたのは10歳くらいの見た目をした少年のエルフだった。
リアナはそのエルフを見た瞬間、思ってしまった。”可愛い”と。
だが、その少年のエルフから発せられた言葉は信じ難いものだった。
「僕はウリエル。もちろん姓はないよ。今年で56かな?よろしくね」
一瞬、聞き間違えたのかと思った。だが、確かに言ったのだ”56”と。
「ご、56?君が?ええぇ?」
リアナは困惑した。こんなに幼い容姿をしているのに自分より歳上であることに。
「あはは、そりゃ驚くよね。僕らエルフは体の成長が遅いんだ」
こんなに無邪気な56歳は見たことがない。
「で、でしたら他のお二方は…?」
「私は412歳だな」
ガブリエルは昔のことを思い出すような顔をしている。
「ちなみに私は749歳だよ」
ミカエルが微笑みながら告げる。
この時、リアナはエルフとは他の生物とはかけ離れた存在であることを再確認したのだった。
「それで、ここに来た目的は……ああ、そこのお嬢さんのことだね?」
突然、ミカエルから発せられた言葉にリアナは背筋が凍った。
リアナはまだ、ここに来た目的を言っていない。それどころかリアナ自身も深くは知らないのだ。
まるで何かを見透かされたような感覚がリアナを包む。
「何故、私だと思ったのですか?」
「何故ってお嬢さんは『神臓』だろう?」
「神…臓…?」
「ああ、まずはそこから知る必要があるようだね」
ミカエルはゆっくりと背を向け、歩き出す。
「ついておいで。きっとお嬢さんの知りたいことがあそこにはあるはずだから」
ミカエルはそう言いながら森の奥へ足を進めるのだった。




