神聖国編 第7話 『信用』
冷え切った空気が石の壁を通ってより冷たく感じる。
あれからリアナとは会っていない。ルイはダグラスに呼び出されていた。
張り詰めた空気が部屋を覆っている。ダグラスは静かに話し始めた。
「先日、リアナ嬢が神聖国の者と思われる刺客に襲われた」
(予想はしていたがやはり神聖国だったか…)
ルイは拳をぎゅっと握った。力を入れると右腕の傷がまだ痛む。
「神聖国が絡んできた以上、何か神との関わりがあるのだろう」
「リアナが…?」
「ああ、だからリアナ嬢をあの地へ行かせようと思う」
「あそこですか、分かりました。俺もすぐに準備をーー」
「ーー待て、ルイ」
ダグラスは部屋を出て行こうとするルイを呼び止めた。
「お前はマークと司令の仕事に就いてもらう」
(は?) 予想外の発言にルイは固まってしまった。
「その目の傷に先日の怪我、お前にしばらく外の任務を受けることを禁止する」
「なぜですか父上!リアナは俺が守らなきゃ!俺が…俺が…!」
ルイの脳裏にまた⬛︎⬛︎の姿が映る。同時に血で染まった自分の手も映る。
息が荒くなる。心臓の鼓動が速度を増していくのがわかる。
「落ち着くんだルイ!」
ダグラスは動揺しているルイの肩に手を置き、ルイを見つめる。
「お前の思うことも分かる。わしもあの日のことを忘れたわけではない!」
父親だからこそ知っている。あの日以降、ルイが変わってしまったことを。
『信用』というものを容易にしないようになった。
同じ過ちを繰り返すのを恐れ、全てを自分で抱え込むようになった。
それは大人になった今も変わらずルイの心に残り続ける傷だ。
「だが、これは皇帝としての命令だ」
きっとこのまま進めば、ルイは⬛︎⬛︎と同じ道を辿るだろう。
そんなことはさせない。父として、皇帝として。
「分かりました…。失礼します…」
ルイは重い足取りで部屋を出ていった。
ーーギィィィ
研究室の扉がゆっくりと開かれた。
ソフィアは誰がきたのだろうと思い振り返った。そこに立っていたのはルイだった。
ソフィアは驚いた。いつも勢いよくドアを開けるルイがゆっくりとドアを開けたからだ。
「何よいきなり、遂にドアの開け方がわかったのかしら?」
「………」
冗談を言ってもいつものような明るい声は返ってこない。
「ハア…いいから入りなさい。話なら聞いてあげるから」
ソフィアはため息をつきながらルイを椅子に座らせた。
ルイは黙っていたが、少しすると話し始めた。
「ソフィア、愛する人を守ることは間違っているのか…?」
その声は小さく、弱々しい声だった。
「間違えてはないわ。でも、あなたの場合はちょっと違う」
ソフィアは息を整えて話し出す。
「あなたは愛している人が自分のために血を流す姿を見たい?自分のせいで傷ついていく姿を黙って見ていられるとでも?自分が何もできないとわかったときの無力さが分かる?」
それは未だ彼を愛しているソフィアだからこそ言えた言葉。
リアナの気持ちを唯一知っているからこそ言えた言葉だった。
「ごめん…」
「そんな弱々しい顔しないの!ほら!顔を上げて!あなたには笑顔が一番似合ってるんだから!」
「うん…」
「ほら、そろそろ帰ってちょうだい。実験の邪魔よ」
ソフィアはルイを追い出すように部屋を出させた。
足音が遠ざかるのを待ってソフィアはドアにもたれかかった。
「ああ、なんで私こんなことしてんだろ…」
今ならルイを奪えたかもしれない。
なのに背中を押してしまった自分がそこにはいたからだ。
ポツポツと涙が落ちてくる。ソフィアは静かに泣いた。
その泣き声が彼に届かないように。
「私に国外への任務ですか?」
リアナはジークに任務を伝えられた。
「ああ、今回の同行者は俺だ。よろしくな」
「ええ、よろしくお願いします。で、どこにいくのですか?」
「それは…」
ー「エルフの森だ」ー




