神聖国編 第3話 『醜い男』
石の階段を一段、また一段と降りていく。
足元を照らす光が太陽から松明へと変わり、気温も下がっていく。
地下牢へと続く階段はとても暗い。
ルイはリアナの手を握り、一歩一歩慎重に降りていた。
腰には護身用に軍刀を下げている。
「しかし地下牢なんか初めて来たけど、こんな暗いのか?」
ルイは周囲を見ながらいかにも嫌そうな顔をしている。
「悪人に豪華な部屋をやるメリットがどこにある?」
ジークは先頭を歩きながら呆れた声で答えた。
「うーん。王国の地下牢でも流石にここまでではなかったぞ…?」
リアナもこの地下牢はあまり得意ではなさそうだ。
一同は黙々と階段を降りていくのだった。
しばらく降りるとやっと少し広い通路に出た。
「ほら、着いたよ」
ジークはそう言うと少し錆びた鉄格子を鍵で開けた。
中には顔に麻袋を被せられ、布一枚の服を着た男が二人、椅子に縛り付けられていた。
ジークは面布をつける。暗影はどんな時でも敵に顔を晒すことは禁じられている。
ジークは男二人の被らされている麻袋を取った。
するとゼノスとレオンの顔が露わになった。
「さてお前たち、ここからは特別なゲストも添えての尋問だ」
ジークはそう言いながら置いてあった椅子に腰掛けた。
ゼノスは目を閉じてずっと黙っている。もう抵抗する気はないようだ。
しかし、レオンだけは違った。レオンはリアナを見るなり怒号を飛ばした。
「リアナ!お前!こんな事をして許されると思うなよ!仮にも元婚約者の僕に向かってなんて事を!許さん許さん許さーん!!」
レオンは椅子をガタガタと揺らしながらリアナに突っかかる。
リアナはそんな醜い元婚約者を哀れな目で見ることしかできなかった。
「お前!何だその目は!王族に向けていい目ではないぞ!不敬罪だ!不敬罪!誰かこの女を引っ捕らえよ!おい誰か!王族である僕の命令だぞ!聞けないのか!大体お前は女のくせにーー」
「ーーうるさいな。黙れよ…」
ルイがそう言った刹那、レオンの右足が断ち切られた。
気づけばルイは腰の軍刀を抜いていた。その剣筋に一切の躊躇というものはなかった。
「ああ…あっ…ああぁぁぁ!血っ!血が!血が〜〜!!」
レオンは痛みに悶え、座っていた椅子を倒し、縛り付けられたまま冷たい石の床に顔をつける。
「お前!僕は王族だぞ!高貴な血なんだぞ!それをそれをっ!」
レオンの顔から汗が吹き出し、顔がくしゃくしゃになっている。
ルイはレオンの顔の近くに軍刀を突き刺す。
石であるはずの床に簡単に軍刀が突き刺さるほどの怒りをルイはレオンにぶつけた。
「態度を改めろと言ってるんだよ。そしてそろそろ現実を見ろこのガキが。お前は高貴な王族なんかじゃない。今はただの叫び泣く蛮族にすぎないんだよ」
その声は怒りを露わにしながらも冷酷で、レオンに恐怖を植え付けていた。
ルイは軍刀を抜き、構え、ジークに尋ねる。
「こいつ、もうやっていいか?」
「好きにするといい…」
ジークはため息を吐きながら答えた。
「嫌だっ!嫌だ嫌だ嫌だ!しっ、死にたくなーー」
ーーザシュッ
飛び散った血が壁や床を赤く染める。ルイはハッとし、リアナに駆け寄る。
「ごめんリアナ…見苦しいところを見せて…」
そんなルイを見てリアナはむしろ微笑んだ。
「私のために怒ってくれたんでしょ?なら、私は嬉しいよ」
リアナはルイを許した。多分、自分も逆の立場だったら同じことをしていたと思ったからだ。
そんな二人を横目にジークはゼノスに話しかける。
「お前に一つ聞きたいことがある」
「何だ…?」
ゼノスは酷く落ち着いている。これは死を受け入れた者のする顔だ。
「神聖国について知っていることは?」
ゼノスは少し黙った後、ゆっくりと口を開いた。
「あの国に言えることは一つだけじゃよ…」
「一つ?」
「ああ…あの国は…」
ー「狂っている…」ー




