神聖国編 第1話 『銀髪の少女』
ルイの目の前に何だか懐かしい景色が広がっている。
大きな一本の木に一面の花畑。どこまでも続くその景色はとても美しい。
そして昔の記憶だからか、自分の体がとても小さい。
「ねえ、三ちゃん。見て見て!」
明るくとても元気な声。そして懐かしい声だ。
声の方向に顔を向けるとそこには笑っている女の子がいた。
見たところこの女の子は自分より年上だ。
腰まである銀色の髪を靡かせ、その手には色とりどりの花が握られている。
「もう⬛︎⬛︎、またその呼び方ですか?」
ルイは呆れた様子で答える。
答えると言っても過去の記憶を見ているだけなので自分が勝手に喋っている感じだ。
「だって第三様って呼びにくいでしょ?」
「まあ、僕は⬛︎⬛︎になんて呼ばれてもいいんですが」
「やったー!ありがとう三ちゃん!はい、これ!」
女の子はルイに握っていた色とりどりの花を渡す。
「ありがとうございます」
ルイはその花を受け取った。そしてその瞬間、女の子は消えた。
気づくとさっきまで女の子が居たところに血溜まりができている。
もらった花は血に変わりルイの手を赤く染める。
まるであの時のように…
血溜まりは徐々に広がり、鮮やかだった花畑を飲み込んでいく。
ルイは赤くなった手を見ながらつぶやいた。
「ーーごめんなさい…⬛︎⬛︎」
ルイはゆっくりと目を開ける。左目からは一筋の涙が垂れていた。
はじめに見えたのは石造りの天井。どうやらここは帝国の王城内らしい。
そして次に視界の端で見えたのは、ぼさっとした紺色の髪をした女性だった。
「ソ…フィア…?」
ルイは乾いた声でその女性の名を呼ぶ。
「ーー!あら、起きたのね」
「ここは…?」
「王城の病室。あんたら二人、仲良く気絶してたのよ」
そう言いながらソフィアはルイの隣のベッドを指す。
そこには眠っているリアナがいた。ルイはリアナの無事な姿を見て安心した。
そしてソフィアは現在の状況について教えてくれた。セフィロース王国との戦争はルイたちが内側から崩したおかげで無事に勝利。そしてゼノス王とレオン第二王子はこの王城の地下に収容されているらしい。また、暗影のみんなも無事だということだ。ノール第一王子は計画通り今は王国の仮の統治者をしているんだとか。
「そうか…みんな無事でよかった…」
「何が無事よこのバカ!」
そう言ってソフィアはルイに手鏡を放り投げた。
ルイはそれをキャッチし、自分の顔を見た。右目には包帯が巻かれていた。
「また無茶して!死んだらどうするのよ!」
「ごめんソフィア。でも…」
ルイの目つきが変わる。それはいつも陽気なルイの目ではない。
「ーー俺は戦うのをやめるつもりはないよ」
「……」
ソフィアは黙るしかなかった。
ずっと一緒に育って来たからこそわかる。彼の考えていることが…
「それは…⬛︎⬛︎のーー」
「ーーソフィア。わかってる。ありがとう」
ソフィアが言おうとしたことはルイの声にかき消された。
「…ごめん」
「いいよ。間違えたことは言っていない。ソフィアは悪くないよ」
病室に少しの沈黙が走る。空気がやけに重い。
「…私はもう研究室に戻るわ。あなたもまだ休んでなさい」
「ありがとうソフィア。じゃあな」
ルイはソフィアを見送った後、眠っているリアナに微笑むのだった。
マークは戦後の事務処理に追われていた。
戦争に勝ったとはいえ、やる事は山積みである。
「マーク様、依頼されていた件、確認できました」
部下の一人が部屋に入ってくるなりそう言った。
マークが依頼していた事、それは戦場での王国軍の配置だ。なぜならこの戦争を見た時、明らかに王国の戦力が想定よりも少なかったからだ。
「どうやら王国は別の国に軍の二割をさいていたようです」
「目的は?」
「おそらく、偵察かと」
「で?その国とは?」
部下が口を開く。それはあまりに意外な答えだった。
ー「神聖国です」ー




