帝国編 第20話 『終戦』[挿絵あり]
「ハア…ハア…ハア…」
荒い息が聞こえる。でもこれは自分の息じゃない。
リアナは瞑っていた目を開ける。視線を上げるとルイがいた。
どうやらルイが守ってくれたらしい。手を広げ、リアナの前に立っている。
だが、ルイは軍刀を持っていない。
「ル…」
リアナが呼びかけようとした時、床に赤い雫が落ちる。
一滴、ニ滴、ポタポタと床に落ちていく。血だ。
その量は増えていき、床に小さな血溜まりを作る。
「ル…イ…?」
「大丈夫…だ。リアナ…。目を一つやられたくらいだよ…」
「………ルイ!」
ルイの右目がザックリと斬られ、血が滴り落ちている。
「武器より仲間を優先するとは…。お前、死にたいのか?」
「こっちは…武器より…大切なものなんでね…」
ルイは息も絶え絶えの様子だ。ボルフスはまた大剣を構える。
「ルイ!そこをどいて!私は大丈夫だから!」
「………」
ルイはリアナが何度呼びかけてもそこを動かない。
「ルイ!」
「自分の大切なものを守って死ぬとは誇りだな」
ボルフスが大剣を振る。
「ルイー!」
ー「アイシクルウォール×3」ー
ルイとリアナの前に分厚い氷の壁が縦に三枚展開される。
ボルフスの斬撃は一枚目と二枚目の氷の壁を砕き、三枚目に亀裂を入れた。
ルイとリアナの前には冷気を帯びた女が立っていた。
「久しいな。”氷結の魔女”よ」
「ええそうね。でも、その名前は少し侵害だわ」
“氷結の魔女”その女こそ元王国魔術師のメーリアである。
「メーリア?どうしてここに?」
「勝手な参戦申し訳ございませんリアナ様。ですが残念なことに私ではボルフスを倒すことができません。私はサポートにまわります。」
「わかったわ。ありがとう」
「何だメーリア?王国魔術師の次は悪党にでもなるつもりか?」
「本当にあなたは昔から変わりませんねボルフス…」
メーリアは氷でルイの右目の傷を凍らせ止血する。
「戦えますか?ルイ様?」
「ああ。すまんなメーリアさん」
ルイは立ち上がりメーリアが拾って来た軍刀を手に取る。
ー「身体強化」ー
ー「速度上昇」ー
「さあ、再戦だ!」
ルイはボルフスに斬撃を浴びせる。その間、メーリアは詠唱を始める。
「我求める姿は我の魔力を糧とし顕現す…」
魔法の中でも詠唱を必要とするもの。それは中級以上の魔法。
ー「クリエイトアイス…ソード!」ー
中級魔法の中でもかなり難しいと言われている”クリエイト”の魔法。
自分の魔法で想像したものを構築する魔法だ。
そして何より魔力の消費が激しい。
メーリアの氷がみるみる形を変えていく。そしてその氷は美しい剣の形に変わった。
「リアナ…様…。これを…お使いください…」
一気に魔力を使ったせいか魔力量の多いメーリアでも息が荒くなっている。
「ありがとう。でも…」
足が動かない。魔力も、体力も共に限界だ。
(ルイがあんなに頑張ってるのに私は何してるのよ!頼むから動いて!私の足!)
ボルフスがまた大剣を振り下ろす。ルイはそれを何とか受ける。
だが、とても重い。大剣の重さとボルフスの化け物じみた力がルイを襲う。
「ぐっ…ぐううぅぅぅ……!!」
このままでは押し潰されてしまいそうだ。その時、ボルフスの足元を冷気が纏う。
ー「アイシクル… リストリクション…!」ー
メーリアが最後の魔力を振り絞る。
ボルフスの足が氷によって拘束される。
「小癪なっ!」
ボルフスは何とか脱出しようとする。氷に少しずつヒビが入り始めた。
「リアナ!」
「リアナ様!」
(二人が私を求めている。ここで決めなくちゃ!)
(動け!動け動け動け!……動け!)
その瞬間、リアナの心臓が強く打たれる。
同時に魔力も体力も漲ってくる。不明の何かがリアナを突き動かす。
「うおおぉぉ!」
リアナは床を蹴り、一直線にボルフスの元へ向かうそして…
「やーーっ!!」
鎧を貫通し心臓を一突き。その一撃は閃光のように輝いていた。
そしてボルフスは息が絶える寸前、リアナに一言の言葉を送った。
「ーー見事だ」
あれだけ騒がしかった王の部屋に沈黙が訪れた。
「あぁ…あぁ…あぁぁ!しっ…死んだっ…ボルフスがっ…ああああぁぁ!!」
レオンは腰を抜かし床を這いつくばっている。そこには王族の威厳などどこにもない。
「しっ…死にたくないっ…死んでたまるかっ…!あああぁぁぁ!!」
レオンは転げるようにして王の部屋から出ていった。
まあ、どうせ捕まるのは時間の問題だ。
(今の力は一体……?)
リアナは周りを見渡す。メーリアは魔力を使い果たしたのか気絶している。
リアナも気が朦朧としていた。
「ルイ…ルイは?」
ルイは地面に座っていた。顔はこっちを見ていない。
「ルイ…顔を…見せて…」
今はルイの顔を見たい。彼に寄りかかりたい。
愛する彼を抱きしめたい。リアナは足を引きずりながらルイに近づく。
「……こんな傷のついた醜い顔、見せられるかよ」
「…それでもいいの…こっちを見て、ルイ…」
「……失望するなよ…」
ルイがゆっくりとリアナの方向に顔を向けたその時だった。
ーーちゅっ
柔らかい何かが触れたのを感じた。
そして何よりリアナの顔が近い。いや、近すぎる。
(えっ…?)
ルイは驚いて体が動かなかった。
そしてリアナが赤く染まった顔で一言言った。
「愛してる…」
その言葉を最後にリアナはルイの胸の中で気絶してしまった。
ルイはしばらく何が起こったのか分からず動けなかった。
そしてしばらくしてからリアナに一言言った。
気絶している彼女には聞こえなかったのかもしれない。
でも、伝えたかったから。この言葉を。その言葉は…
ー「愛してる」ー
これにて第2章 帝国編は終了です。
次からは最終章の神聖国編が始まります。
これからも気ままに書いていきますのでよろしくお願いします!




