帝国編 第17話 『挑戦者』
彼は生まれつき体が弱かった。
それどころか別派閥から殺されかけることもしょっちゅうだった。
だからこそ彼が望むことはたった一つだった。
ー生きることー
それが彼の唯一の望みなのだ。
彼は生きるためだけに知識をつけ、人を率いた。
そのせいか彼には王族特有の傲慢さも、高いプライドもなかった。
やがて彼は療養という名目で離宮に入った。
彼はそこで生きるための基盤を作り出した。
信用できる者たちだけを集め、王国や帝国の情報を集めだした。
やがてその基盤は大きく、そして複雑になっていき、いつしか離宮という名の小さな国家を作り出した。
彼の生きるための策は徹底的で誰も破ることはできなかった。
そのせいか彼には『影の策士』という二つ名がついた。
誰が言い出したのかわからない。だが彼にはそんなことはどうでも良かったのだ。
生きるためなら何もかもを差し出す覚悟が彼にはあった。
それが影の策士、ノール・セフィロースなのだ。
そんな存在を前にルイたちは立ち尽くしていた。
明らかに敵意は無いはずなのに隙を見せれば一瞬で呑まれてしまいそうだ。
こいつは何がしたい?何のためにこんなことを?味方なのか敵なのか?
一同の脳内に数多の疑問が飛び交う。最適な行動がわからない。
「ずっと立っているのも辛いだろう…?掛けるといい」
一同は言われるがままに席についた。
ノールは少し疲れたのか息を整えて話し出した。
「言ってしまえば私たちは君たちの味方だ」
「そうか。で、俺たちに何の協力をしてくれるので?」
ルイはノールのペースに呑まれないように話し出した。
「まずは戦力の提供、そして王城の情報の開示などだね…」
「随分気前がいいんだな。家族が殺されるかもってのに」
「僕は生きられればいいんだからね。この意思は彼らも同じだよ…」
ノールは後ろに並ぶ使用人たちを指した。彼らはノールに忠実なのだろう。
「…………」
ルイは考えていた。なぜこんな事をするのか。何の利益があるのか。その時リアナが呟く。
「ーーそういうことか…」
「なんだリアナ?何かわかったのか?」
「ええ、さすがノール様。影の策士と言われるだけありますね…」
「話してくれ」
「まず、私たちは協力したノール様を殺せません。保護する必要があります」
「ああ、それは俺にも分かる。だがそれだけとは思えないんだ」
「大事なのはここからです…」
一同はリアナの方を向く。ノールは落ち着いた態度で聞いている。
「もし、私たちがこの戦争に勝利し王国を手に入れたとするとある問題が発生するのです」
「問題?」
「それが王国と帝国の“基軸の違い”です。王国と帝国では歴史も文化も常識も違うのです。つまり支配してもすぐに統一することはできません。そこで敵ではない王国の基軸を知るものが支えなければなりません。」
それを聞き、一同は黙り込む。そしてルイが重い口を開く。
「つまり、それにノールは適任すぎる…」
この作戦が成功した場合、帝国が王国を統一するまでの間、
完全にではないがノールはこの王国の“王”としてその崩れた玉座に座る。
再び沈黙が続いた後、ルイが呆れながら一言言う。
「ははは…ノールお前…」
「ーー策士だな」
「それは…褒め言葉として捉えていいかい?」
ノールは相変わらず落ち着いて笑みを崩さない。
彼の内面は霧ががかかったようでまるで見えない。
「いいさ。乗ってやる」
「ルイ!?」
「お前、こいつを信用していいのか!?」
リアナとジークが慌ててルイを見る。
「こいつは“影の策士”なんだろ?だったら少しでも確実な未来に賭けようじゃないか」
ルイは手を差し出す。その手をノールは優しく掴む。
「ーーよろしくな“影の策士”さん」
「…こちらこそ。“挑戦者”」
握り合ったその手には光と影が混ざり合うのだった。




