帝国編 第12話 『いたずら好きの兄』
セフィロース王国アルベール領の屋敷の一室。
リアナやルーク、侍女たちは思い出話やルイのことについて話していた。
部屋は笑い声に包まれている。
だが、壁一枚挟んだ隣の部屋では冷気と沈黙に包まれていた。
その部屋は霜に包まれ、所々に氷の結晶ができている。
ルイは氷付けにされた自分の軍刀を横目に椅子に座っていた。
足は氷で固定され、扉も氷付けにされている。
頑張れば破壊して脱出できそうだが後が怖い。
「さあ、私とお話ししましょうか…」
メーリアがニコニコしながら話しかけてくる。だが、目は決して笑っていない。
この状況を見ればお話しというよりもはや尋問である。
「メ、メーリアさん。さっき俺と戦ったばかりだけど大丈夫なの…?」
「問題ありません。並列構築は使ってませんし、魔力量には自身があるので」
「左様ですか…」
「では始めますよ」
「で、できるだけ優しくお願いします…」
怖いのか、寒いのかどちらかわからないがルイの体は震えていたのだった。
数時間が経った後、隣の部屋からルイとメーリアが出てきた。
ルイはガタガタ震えている。
「だ、大丈夫?ルイ?」
「ああ、リアナ。何か温かいものを入れてくれる?」
「わかったわ。お疲れ様」
こういう何気ない会話を見ていると本当の夫婦に見えてくる。
メーリアはリアナに言った。
「リアナ様。今、幸せですか?」
リアナは温かい紅茶を飲んでいるルイを見ながら優しい声で答えた。
「ええ。とっても幸せよ」
その言葉を聞いた瞬間、安堵と少しの寂しさがメーリアを包んだ。
もう主人は頼れる人を見つけたのだと。
そしてメーリアは祝福の言葉を贈るのだった。
「リアナ様。ご婚約、おめでとうございます…」
とても小さな声だった。隣にいるリアナにも聞こえない小さな声。
その声はまるで今までずっと見守ってきた子が巣立ったときの親鳥のようだった。
その後、屋敷の見張りは”暗影”に任せてみんなで与太話をしていた。
部屋は敵地とは思えないほど平和である。
「ーーでそれが…」
「報告だ」
突然、リアナの後ろで男の声がした。
リアナは驚いて後ろを見る。そこには黒い軍服に面布で顔を隠した男が立っていた。
「ひゃっ」
リアナは驚いて変な声が出てしまった。
メーリアも突然現れた男に戦闘体制を取る。
しかし冷静に考えるとこの格好をしているのは”暗影”の者だ。
「はっはっは。これはまた愉快な女だなルイ」
「あのな、その気配消して近づくのやめてくれない?」
「すまんすまん。癖でな。職業病とかいうやつだ」
男はルイととても親しげに話している。知り合いなのだろうか?
「ああすまん。いきなりでわからねえよな」
男は面布と軍帽を外した。その瞬間リアナはハッとした。
なぜならその男の髪はルイと同じ銀色だったからである。
「俺の名前はジーク・トラニカル。トラニカル帝国第二王子にして特別精鋭特殊部隊“暗影”の隊長をしている。よろしくなルイの婚約者」
第二王子。まさかこれほどの者とは…元騎士であるリアナですら声をかけられるまで気づかなかった。
「で、兄上、報告って?」
「ああ、見張りの配置と占領の旗印、帝国への早馬が完了した」
「了解。さすがだね」
こうしてアルベール領の一夜無血開城は無事完了したのだった。




