帝国編 第5話 『ルイ・トラニカル』[挿絵あり]
もうどれくらい歩いただろうか…
3日間野宿をはさんでずっと森の中を歩いている。
「ほら見えてきたぞ!」
先頭のダグラスが声を上げる。周りの木々は少なくなり、奥から光が漏れている。
ルイとリアナはその光に踏み込む。久しぶりの太陽が眩しい。
広がる景色をよく見ると奥の方に石造りの壁が見える。
「あそこがトラニカル帝国王都、オスタージュだ!」
それから少し歩いてあの石造りの壁まで来た。壁の手前には堀まである。
どうやらこの壁はオスタージュの城壁のようだ。
「久々に見たな〜。この城壁…」
ルイは懐かしそうに石の城壁を眺めている。
「おーい!橋はこっちだぞ!」
二人はダグラスについて行き、ついに帝国の王都、オスタージュに入ったのだった。
リアナは驚いていた。帝国といえば物騒な場所を想像していたからである。
だが、オスタージュはとても賑やかで、カザリアよりも活気がある。
一行は真っ直ぐ城に向かった。
城と言っても王国のように煌びやかな訳ではなく、要塞といった感じだ。
城に入ると、長い廊下に軍服を来た人たちが道を挟むように整列していた。
男性は黒の軍服、女性は白の軍服を着ている。
彼らの左胸には色とりどりの階級章が鈍く光り、その多くが高い地位にあることを示していた。
そして、ダグラスを先頭に歩き出すと、全員が一斉に頭を下げる。
「おかえりなさいませ。我が王よ」
その声は石壁に反響し、重々しい迫力となって一行を包み込む。
「驚いたか?リアナ?帝国では男性、女性関係なく基本実力主義なんだ」
恐らく、この制度おかげで帝国はこれほどの国になったのであろう。
基本、血で階級が決まる王国とはまるで違う。
「第三様、まもなく与名式が始まります。ご準備を…」
「ああ、了解した」
一行は廊下を進むのであった。
与名式が始まった。ルイは煌びやかな飾りが着いた軍服で舞台に立っている。
近くにはマーク・トラニカルとジーク・トラニカルらしき銀の髪の男が立っている。
そしてダグラスが装飾の入った軍刀をルイに手渡し、“皇帝”として話しだした。
「今日より、この者に『ルイ』と名乗ることを許し、名を『ルイ・トラニカル』とする!」
広間中に大きな歓声が上がる。
この瞬間、名もなき帝国の第三王子は『ルイ・トラニカル』になったのであった。
式が終わった後、ルイがいつもの軍服に着替えてリアナに近づいてきた。
「与名おめでとう!ルイ!まさか本当に名前が“ルイ”になるなんてね」
「まあ、名前を考えるのは父上だからな。あの人らしいよ」
「そうね」
「あ、そうだ会いたい奴がいるんだよ。名を貰ったことを伝えに行かなきゃ」
「え?さっきの式でもう知ってるんじゃないの?」
「いやぁ…あいつは基本こんなとこに来ないからな」
「変わった人ね。古い知り合い?」
「知り合い…というよりは”幼馴染”ってところかな?ああ、それとこれ」
ルイは白い軍服をリアナに手渡した。
「着替えてきておいで。それから会いに行こう」
「私も?」
「そう。まあ、面白い奴だからさ!」
軍服に着替えたリアナはルイと一緒に長い廊下を歩いていた。
「この先にその“幼馴染”がいるの?」
「うん。ほら!あそこだよ」
ルイは一つの扉を指差した。そしてその扉を勢いよく開ける。バーン、と派手な音を立てて扉が開いた。
「おーい!ソフィア!いるかー!」
カーテンが閉まり、薄暗い部屋だった。
すると奥にいた紺色のぼさっとした髪と、だらしないドレスを着た女が振り返った。
「うるさいわねー!ドアはゆっくり開けろって…ああ…あんた…」
「久しいな!ソフィア!二年ぶりか?」
「そうね。相変わらずあんたは元気そうね…」
「リアナ、こいつはソフィア・アシュリー。一応、古代魔法学者だ」
「一応って何よ…で、そちらのお嬢さんは?」
「彼女はリアナ・アルベール。その…俺の…婚約者だ」
二人の顔が少し赤くなる。
「は…?」
「なんだソフィア?先を越されて悔しいのか?」
ルイはニヤニヤしながらソフィアを煽る。かなりの付き合いなのだろう。さすがは“幼馴染”ってやつだ。
「そんなんじゃないわよ。まあ、おめでとう…。で?ご祝儀でも貰いに来たの?」
「ただの報告だよ。それに俺は今日から『ルイ』だ!」
「名まで貰ったのね、あんたにしてはやるじゃない。それと実験の邪魔だからそろそろ出て行ってくれる?」
「じゃ、またちょくちょく顔出すわ!じゃあなソフィア!」
二人は部屋を出て行った。
沈黙が続く研究室でソフィアは窓のカーテンを少し開ける。久しぶりの光は目に悪い。
すぐにまたカーテンを閉め、机に伏せる。
「ああ…もう…だから嫌なのよ…」
静まり返った研究室に、彼女の溜息だけが残っていた。




