帝国編 第3話 『父親』
日が落ちてきた。
いつもなら夕食の匂いが漂う家の空気はいつになく張り詰めている。
そう。なぜなら今、ルイとリアナのテーブルを挟んだ先に座っているのは
トラニカル帝国皇帝、ダグラス・トラニカルだからである。
数分の沈黙が続いた後、ルイが口を開いた。
「父上、その…何用でここままで来られたのですか?」
ダグラスはさっきからずっと黙ってリアナのことを見ている。
そのせいか、リアナは恐怖と緊張で顔が青い。ダグラスがゆっくりと口を開く。
「まさか、大貴族の一人を捕虜にするとはな。父として鼻が高いぞ」
その声は驚くほど低く、冷たい。まさに“皇帝“と言えるだろう。
リアナは怖かった。後ろにいる護衛達が襲ってくるのではないかと。
「これで、お前も名を与えられるだろうな」
ダグラスはとても冷酷だ。するとルイは立ち上がりリアナを手で制す。
「お言葉ですが父上、リアナは捕虜などではありません。俺の大切な人です」
その瞬間、部屋の空気が変わり親子二人は睨み合う。
「ほう…?」
ダグラスは椅子から立ち上がりリアナに顔を近づける。
「それは本当か?」
「はっ…はい…」
リアナは震えながらも答えた。
数秒の沈黙が続いた後、ダグラスが口をひらく。
「それで、こいつとはどこまで行ったんだ?」
「へ?」
リアナは困惑した。
その時のダグラスの顔は“皇帝“の顔ではなく“親”の顔だった。
「ちょ、ちょっと父上!変なこと聞かないでください!」
「何でじゃ?ここは父としても気になるところだろ?」
「本当に昔からデリカシーないんだから!このクソ親父!」
「何だと⁉︎大事な倅の初めてのお相手じゃぞ?色々知りたいじゃろ?」
「本当に黙ってろ!」
リアナはいきなり始まった親子喧嘩に呆気に取られていた。
「ル…ルイ?これは一体…?」
「ああ、こいつマジの親バカなの!だから会いたくなかったんだよ!」
「まあ、そう言うな。それにしても“ルイ”か、まさか子供の時に読み聞かせた
英雄譚から名前を取るとは、お前もなかなか面白いの〜」
「それを言うな〜!」
ルイは顔を真っ赤にして怒っている。
「ふふっ…」
リアナは不覚にも笑ってしまった。ルイは恥ずかしそうに怒っている。
「じゃあ、すまんがリアナを少し借りるぞ〜」
「何する気だ!変なことしたら親父でも許さねえぞ!」
「なーに。少し話すだけじゃよ」
そう言いながらダグラスはリアナを連れて隣の部屋に消えていった。
「あーもー!」
ルイは諦めた。ああなった父はもう止められないからだ。
護衛達が近づいてくる。
「いやーまさか。第三様に恋人ができるとは。私も嬉しゅうございます」
“第三様”は名前の無いルイの呼称である。
「お前達もそれを言うのか…」
「あんなに小さかった第三様が恋人を…」
もう一人の護衛は涙を流している。
「それいつの話だよ。俺もう今年で23だぞ?」
「お相手は?」
「え、に、22…」
「素晴らしい!」
護衛達がまだ騒いでいる。
ルイはついに考えることをやめた。
こうして霧の森の一軒家はいつもより賑やかな場所になったのだった。




