突然の来訪
トンネルが貫通してから数日。
物流はすっかり落ち着き、作業は順調に回り始めていた。
コンベアーは昼夜を問わず動き続けている。
鉄鉱石は向こうへ。
土砂も向こうへ。
私は作業報告書を眺めながら満足そうに頷いた。
「順調に鉄鉱石、土砂が向こうに送られて居る」
トンネルの効果は想像以上だった。
馬車より速い。人手も減る。
私は机の上の地図を見る。
「鉄鉱石もたっぷり備蓄しておいて良かった」
ショベルカーに掘削機。
向こうで作られている重機が届けば、採掘速度はさらに上がるはずだ。
「ショベルカーとか掘削機が届いけば更に掘れるから問題無いだろ」
問題はむしろ――私は窓の外を見る。
山のように積まれていた土砂。
それも今では少しずつ減っている。
「土砂もその内、無くなって元の状態に戻る」
あの場所。土砂置き場だった土地。
私は少し考える。
「そこの土地には何作ろうかしら」
倉庫。市場。工場。色々考えられる。
私は椅子にぐったりと背を預けた。
「はぁ〜。疲れた」
ここ最近ずっと忙しい。
掘削。輸送。人員配置。
考える事が多すぎる。
私は立ち上がった。
「ひとっぷろ温泉に浸かるか〜」
この村の唯一の贅沢。
温泉。私は露天風呂へ向かった。
湯気が立ち上る湯船に、そっと浸かる。
「あ〜……」
思わず声が漏れる。
「はぁ〜極楽!」
体の疲れが一気に抜けていく。
本当は長湯したい。
私は自分の体を見下ろした。
小さな手。小さな体。
「長湯したいんだけどこのちっこいボディー」
まだ子供の体。
長く入るとすぐにのぼせる。
「直ぐにのぼせるから気を付けないとなぁ〜」
私は湯の中で手足を伸ばす。
「はぁ〜極楽!極楽!」
静かな山の空気。
遠くで工事の音が小さく響く。
その時だった。
背後から突然声が響いた。
「ちょっと!ゆきちゃん!露天風呂に浸かって何してるのよ!?」
私は間の抜けた声を出した。
「ヘェ〜ぃ〜?」
振り返る。
そして――固まった。
「げっ!?」
そこに立っていたのは。
見慣れた金髪の少女。
腕を組んでこちらを見ている。
「まきちゃん!?」
私は思わず叫んだ。
「何故ここに!?」
まきちゃんは呆れた顔をした。
「何故って」
そして肩をすくめる。
「トンネル繋がったでしょ?」
私はぽかんと口を開けた。
確かに繋がった。
つまり――来れる。
まきちゃんは続ける。
「様子見に来ただけよ」
そして露天風呂を見渡す。
「トンネルの中にパイプが通ってるの気がついて聞いたら温泉あるって」
私は目を細める。
「……それが本音でしょ」
まきちゃんは笑った。
「バレた?しかし内緒にしていた様なので温泉はうちの領地にも引きます!」
私は思わずため息をついた。
「はぁぃ……」
トンネルが繋がった。
それはつまり――
簡単に行き来できるという事だ。
私は湯船の中で頭を抱える。
まきちゃんはニヤリと笑った。
「当然でしょ」
そして言う。
「だって温泉あるんだもの」
私は空を見上げた。
どうやら――この静かな温泉も。
これから少し賑やかになりそうだった。




