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国境から始まる工業革命 ―転生エンジニア領地開発記―  作者:


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山越えの取引

夜の拠点は昼間よりも静かだった。


作業は続いているが、人の声は少なく、代わりに遠くからツルハシの音が微かに聞こえてくる。


私は研究室の奥に置かれた机へ向かった。

その上には、まきちゃんから送られてきた固定式無線機が置かれている。


椅子に腰掛け、スイッチを入れる。


ジジ……。


小さな雑音が流れる。

通信状態は悪くない。


私はイヤホンを耳に寄せた。


「こちらフジ」


数秒の沈黙の後、ノイズの向こうから返事が返ってくる。


「こちらさくら」


私は思わず笑った。


「お願いがあるの」


そして続ける。


「鉄鉱石、分けて」


しばらく無線の向こうが静かになり、すぐに小さな笑い声が聞こえた。


どうやら、ある程度予想していたらしい。


まきちゃんは少し考えるような間を置いてから言葉を続けた。


「荷馬車五十台分。いっぺんにじゃなくていい。少しずつでトンネルが出来るまでの間」


さらに少し間を置き、付け加える。


「もちろん」


「帰りの便には石炭を渡すし、お金も無線機代から引いて」


そして最後に、軽い調子で言った。


「どう?取引、する?」


私はすぐに答える。


「解ったわ。直ぐには無理だけど手配するわ」


それで通信は終わった。


私は固定無線機のスイッチを切る。

部屋はすぐに静けさを取り戻した。


どうやら、まきちゃんの方はかなり物資に困っている様子だ。

草原から拠点を作っているのだから、無理もない。

それならば、こちらが少し助けてあげるべきだろう。

私は椅子から立ち上がりながら考える。


明日は文官と相談だ。


まずは荷馬車の準備。

そして運ぶ鉄鉱石の確保。


さらに護衛の募集も必要になる。


山越えの輸送になる以上、魔物や盗賊の危険は避けられない。

安全を確保しなければならない。


私は窓の外を見た。


夜の拠点では、まだ作業の灯りがいくつか揺れている。


トンネル工事。鉱山。村の拡張。


やる事は山ほどある。

それでも私は小さく笑った。

忙しいのは悪い事ではない。


隣の領地との取引。

それはきっと、これからの流れを変えていく。


まずは――


荷馬車五十台分の鉄鉱石の手配から始める事になりそうだった。

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