広がる仕事
朝の空気は少しひんやりしていた。
山の麓の拠点では、今日も人の動きが絶えない。
トンネル工事。鉱山。村の整備。
どこを見ても人が働いている。
ガン、ガンとトンネルのツルハシの音が山の中から響いてきていた。
私は簡易机の上に置かれた報告書を眺めながら、ふぅと息を吐いた。
「……増えたわねぇ」
文官が横から苦笑する。
「はい。かなり」
報告書の内容は、領都から届いたものだった。
どうやら――私が開発した商品。
石鹸。クリーム。美容液。洗濯関連。
これらの生産が、領都だけでは追いつかなくなったらしい。
私は紙を指で叩いた。
「つまり」
「生産拠点を増やすって事?」
文官が頷く。
「そのようです」
領主館の判断で、生産施設を領内の別の町にも作ることになったらしい。
私は少し考える。
「まあ……」
そして肩をすくめた。
「それはそれで良いんじゃない?」
一箇所に工場を集中させると、どうしても問題が出る。
人が溢れる。土地が足りない。
物資が偏る。
私は言った。
「分散生産ね」
文官が少し感心した顔をする。
「確かに」
私は続ける。
「何ヶ所かに振れば、雇用も増えるし輸送も楽になる」
文官はメモを取りながら頷く。
「理にかなっています」
私は椅子にもたれた。
「まあ私の所で作ってる商品だし売れるなら良い事よ」
正直なところ。
もう領都の事まで細かく見ていられない。
私は外を見た。
作業員が資材を運び、職人が建物を直し、鉱夫が山へ向かっている。
この場所は――とにかく忙しい。
私は苦笑した。
「こっちはそれどころじゃないけどね」
文官も頷く。
「確かに」
この拠点だけでも、仕事はいくらでもある。
鉱山の整備。トンネル工事。住宅の補修。
倉庫建設。温泉の排水。
そして新しい人員の受け入れ。
私は机の上の書類を軽くまとめた。
「そもそも仕事が多すぎるのよ」
文官が笑う。
「お嬢様が増やしているのでは?」
私は即答する。
「必要な事よ」
そして立ち上がる。
村の方を見る。数ヶ月前。
ここは、ほとんど動きのない小さな村だった。空き家だらけ。人も少ない。
今は違う。人が増えた。建物が増えた。
鍛冶場の煙が上がり資材が運ばれる。
道が広がる。
私は腕を組んで眺めた。
「順調ね」
文官も同じ方向を見る。
「はい」
そして静かに言う。
「町になりつつあります」
私は少し笑った。
「でしょう?」
村は変わる。人が集まり。仕事が生まれ。
建物が増える。
そうなれば――自然と町になる。
私は空を見上げて言った。
「まだ始まったばかりよ」
ここはまだ拠点。いずれ――
鉱山と街道を持つ町になる。
その未来は、もう見え始めていた。




