道を穿つ
鉱山の村は、日に日に賑やかになってきていた。
最初は静まり返っていた空き家も、今では半分以上が使われている。
屋根の修理が終わった家から、人が住み始め、煙突から煙が上がる。
私はその様子を見ながら頷いた。
「大分、人手も集まってきたわね」
文官が帳簿を確認しながら答える。
「はい。予定より早いペースです」
経済奴隷として集められた者達。
その中には、大工、鍛冶屋、農民、鉱夫、放牧民など、様々な職能を持つ者がいた。
私は簡単な地図を広げた。
「配置を決めましょう」
鉱山班。住宅修理班。備蓄管理班。
そして――私は地図の山を指差した。
「ここ」
文官が覗き込む。
「街道ですか?」
私は頷いた。
「ええ」
この村からまきちゃんへ向かう街道。
問題があった。
小さな山を大きく登っているのだ。
距離も時間もかかる。
だから――
「ここにトンネルを掘る」
文官が少し驚いた顔をする。
「トンネル……ですか」
私は笑った。
「そう」
「街道用のトンネル」
それが完成すれば、輸送距離はかなり短縮される。
鉱石。資材。食料。
こちらかも物資のすべての流れが速くなる。
そして今日、その工事が始まる。
私は山の前に立った。
既に数十人の作業員が並んでいる。
手にはツルハシ。シャベル。
木製の台車。私は小さく息を吐いた。
「……手掘りね」
文官も苦笑する。
「はい」
私は少し空を見上げた。
「重機が欲しいところよね」
巨大な掘削機。ブルドーザー。
ドリルマシン。
だが――この世界にはない。
仮に設計できたとしても。
「燃料がない」
文官が頷く。
「燃料??」
私は腕を組んだ。
「原油を掘り当てないと無理」
それも現実的ではない。
この世界に石油があるかどうかも分からない。仮にあったとしても探すには膨大な時間と資金が必要だ。
私は首を振った。
「そんな物に時間と金を浪費する訳にはいかない」
現実的な方法。
それは――
「手掘り」
私は作業員達を見た。
「人手が多ければ、それなりに進む」
文官も頷く。
「確かに」
数十人。いずれは百人。それだけいれば、山は少しずつ削れる。
私は手を振った。
「作業開始!」
ツルハシが振り下ろされる。
ガン!
ガン!
岩を叩く音が山に響いた。
私はその様子を見ながら言った。
「道具はここで生産して」
文官が答える。
「すでに鍛冶屋が動いています」
それは大きかった。
職人が増え鍛冶屋。木工職人。
石工。道具を現地で作れる。
それだけで効率は大きく変わる。
私は腕を組んで笑った。
「まあ」
「それなりに進めばいいでしょう」
その時だった。遠くから声が聞こえた。
「お嬢様!」
振り向くと、護衛が荷車を連れてきている。
「荷物が届きました!」
私は首を傾げた。
「荷物?」
予定していた資材とは違う。
箱の形も違う。私は近づいた。
箱には見覚えのある印があった。
私は思わず笑った。
「まきちゃんからだ」
箱を開ける。
中には金属の機械。
コイル。管。配線。
私は思わず声を上げた。
「……これ固定式の無線機じゃない!」
文官が驚く。
「無線機ですか?」
私はすぐに理解した。
「あー……なるほど」
私は村を見渡した。
ここ鉱山拠点、そして領都。
「ここに設置すれば」
私は言った。
「領都に置いた無線機と交信できる」
文官の目が大きくなる。
「つまり」
「通信拠点……」
私は頷いた。
「そう」
さらに考える。人員。教育。通信。
私は笑った。
「操作は文官達に覚えさせる。覚えたら」
私は指を立てた。
「領都へ派遣」
そしてすぐ訂正する。
「いや戻せばいい」
文官が首を傾げる。
私は続けた。
「向こうでも使える。そして向こうで教える」
文官は理解した。
「通信網……」
私は笑った。
「そう」
無線網。拠点。領都。
そして――将来的にはまきちゃんの領地。
私は空を見上げた。
「いいわね」
そして小さく呟く。
「まきちゃん、ありがと」
箱を閉じ私は苦笑した。
「支払い」
文官が聞く。
「無線機のですか?」
私は頷いた。
「ええ」
そして言う。
「追加しないとね」
遠くでツルハシの音が響いている。
ガン。
ガン。
ガン。
山を掘る音。
そして新しい通信機。
この村は――まだまだ変わっていく。




