国境会談
馬車の中には、重い沈黙が流れていた。
私とまきちゃん。
そしてレオンハルト・アルフェルト伯。
フリードリヒ・ヴァイスベルク伯。
小さな机を挟んで、四人が向かい合って座っている。
先ほどの話――従兄弟。
その事実の余韻が、まだ残っていた。
最初に口を開いたのは、フリードリヒ伯だった。
「……なるほど」
ゆっくりと机を指で叩く。
「銃」
そして視線を私達に向ける。
「火薬兵器か」
まきちゃんは頷く。
「はい」
レオンハルト伯が続ける。
「魔物対策として作った」
その言葉に、私が苦笑する。
「まあ、そんな所です」
フリードリヒ伯はしばらく黙っていた。
そして言った。
「これは戦争の道具だ」
空気が少しだけ張り詰める。
まきちゃんは静かに答えた。
「そうですね」
否定は出来ないが私は続ける。
「ただし今のところは、魔物対策です」
レオンハルト伯が私を見る。
その視線は、娘を見る父の目ではない。
領主の目だった。
「そして石炭か」
まきちゃんは頷いた。
「地下数メートル。かなりの量です」
私が続ける。
「こちら側には鉄鉱脈があります」
フリードリヒ伯の眉がわずかに動いた。
石炭。鉄。
領主なら、その意味が分かる。
しばらく沈黙。
そしてレオンハルト伯が言った。
「……なるほど」
そして静かに笑う。
「娘達はどうやら国境のど真ん中に、宝を見つけたらしい」
フリードリヒ伯も頷く。
「しかも二人とも同じ発想で銃を作った」
そして少し呟く。
「偶然とは思えんな」
まきちゃんは肩をすくめた。
「偶然ですよ」
私も笑う。
「多分」
二人の伯爵は顔を見合わせた。
そしてレオンハルト伯が言った。
「一つ確認する」
私達を見る。
「お前達、協力するつもりか?」
私はまきちゃんを見る。
まきちゃんもこちらを見る。
答えは、もう決まっていた。
まきちゃんは言う。
「はい」
私も頷く。
「そのつもりです」
フリードリヒ伯が腕を組む。
「だが国は違う。王国と帝国だ」
その通りだ。普通ならここで話は終わる。
レオンハルト伯が静かに言った。
「……旧南国の血」
フリードリヒ伯が小さく笑う。
「まったく因果なものだ」
そしてフリードリヒ伯が言った。
「正式な同盟は無理だ。国家が許さない」
レオンハルト伯も頷く。
「別の形なら出来る」
まきちゃんは身を乗り出した。
「別の形?」
レオンハルト伯はゆっくり言った。
「共同開発」
そして地面を指す。
「この資源だ」
フリードリヒ伯が続ける。
「石炭と鉄、これを共同で開発する」
まきちゃんは目を見開いた。
私も同じ顔をしている。
レオンハルト伯が笑う。
「もちろん表向きは別々だ」
フリードリヒ伯も言う。
「だが裏では協力する」
私はまきちゃんを見る。
私もこちらを見る。
そして二人同時に笑った。
「それ最初からそのつもり」
馬車の中に、少しだけ笑いが広がった。
国境の草原。その小さな馬車の中で。
二つの領地。
二つの国。
そして二つの家が――静かに手を組んだ。




