火薬の力
草原には、まだ火薬の匂いが残っていた。
倒れたゴブリン達。
胸には、小さな穴。
騎士達は困惑した表情でそれを見つめている。
「矢ではない……」
「魔法でもない……」
その時、低い声が響いた。
「……説明してもらおうか」
レオンハルト・アルフェルト伯だった。
その視線は私とまきちゃんの手元――
拳銃に向いている。
隣ではフリードリヒ・ヴァイスベルク伯も同じ様に観察していた。
私は少し息を吐いた。
「これは新しい武器です」
私は拳銃を軽く持ち上げた。
「火薬を使った武器」
騎士達がざわめく。
「火薬……?」
フリードリヒ伯が静かに言う。
「爆薬の一種か」
「似ています」
私が続けた。
「爆発の力で小さな弾を飛ばす仕組みです」
二人の伯爵は無言で銃を見つめる。
そして、ゆっくりとゴブリンの死体へ視線を移した。
「……数秒だったな」
レオンハルト伯が呟く。
「騎士十人でも、もう少し時間がかかる」
私は肩をすくめた。
「そうですね」
フリードリヒ伯が言う。
「この武器は、何人作れる?」
私は少し考える。
「時間を掛ければ増やせます」
「ただし」
私は続けた。
「精密加工が必要です」
そして、少し笑った。
「今のところは、試作品です」
伯爵二人は顔を見合わせた。
草原に沈黙が落ちる。
しばらくして、フリードリヒ伯が口を開いた。
「……なるほど」
そして小さく息を吐く。
「娘達はどうやら」
レオンハルト伯が言葉を続けた。
「我々の想像より、遥かに大きな物を作っているらしい」
私はゆきちゃんを見る。
ゆきちゃんもこちらを見ていた。
二人で小さく笑う。
そして私は言った。
「まだありますよ」
レオンハルト伯が眉を上げる。
「……まだあるのか?」
私は頷いた。
「石炭」
そして地面を指した。
「鉄鉱石」
草原の風が静かに吹く。
伯爵二人の表情が変わった。
どうやら。
今日の会談は――
ただの国境会談では終わらないらしい。
馬車の中は思ったより広かった。
移動式無線機の機材が端に寄せられ、中央には簡易の机が置かれている。
そこに、私とゆきちゃん。
そして両伯爵が向かい合って座っていた。
しばらく沈黙が続いた後、フリードリヒ伯が口を開く。
「……まさか」
「お前の娘と、うちの娘がここで会っているとはな」
レオンハルト伯が小さく笑う。
「運命というやつかもしれんな」
私は首を傾げた。
「……お父様?」
ゆきちゃんも同じ顔をしている。
「どういう事?」
二人の伯爵は顔を見合わせた。
そしてレオンハルト伯が言った。
「説明していなかったか」
私は即答する。
「聞いてません」
ゆきちゃんも同時に言う。
「私も」
フリードリヒ伯が少し苦笑した。
「まあ、そうだろうな」
そして静かに言った。
「我々は――」
「従兄弟だ」
数秒、時間が止まる。
「「……は?」」
私とまきちゃんは同時に声を上げた。
思わず顔を見合わせる。
「え?」
「え?」
レオンハルト伯が肩をすくめる。
「旧南国時代の話だ」
「我々の祖父同士が兄弟だった」
フリードリヒ伯が続ける。
「南国が滅びた後。家は二つに分かれた」
「西へ残った家、東へ移った家」
私は呆然と呟く。
「……つまり」
「私達……」
私達はまた同時に言った。
「「親戚!?」」
馬車の中に沈黙が落ちた。
そして私はまきちゃんを見る。
まきちゃんもこちらを見る。
そして同時に笑った。
「「世間狭すぎ!」」
その様子を見て、二人の伯爵は小さく息を吐いた。
そしてレオンハルト伯が静かに言った。
「皮肉なものだ」
フリードリヒ伯が頷く。
「南国が滅んでから三代。我々は別々の国に仕えている」
そしてレオンハルト伯は、ゆっくりと言った。
「だが、血は国境では分かれない」
馬車の中に、静かな沈黙が落ちた。
その言葉の意味を私達はまだ完全には理解していなかった。
この草原で起きている事がただの偶然ではない事だけは、はっきりしていた。




