五年越しの再会
まきちゃん達ね。
やっぱり護衛は警戒している。
まあ、そうだよね。
私達の隊列は整った行軍だった。
先頭に騎馬の護衛。
中央に馬車。
後方に荷車。
そして左右にも警戒の騎士。
遠目から見ても、明らかに領主家の行列だ。
やがて私達の一行は、前方で止まっている馬車隊の横にゆっくりと近づいていった。
そして静かに停止する。
私は馬車の窓から前方を見た。
「……あれね」
一台だけ、明らかに違う馬車があった。
形も構造も普通の馬車ではない。
屋根には長い棒のようなもの。
アンテナ。間違いない。
移動式無線機を積んだ馬車。
つまり――まきちゃんの馬車だ。
私は小さく笑った。
「さて」
私は馬車の扉に手を掛ける。
「降りますか」
扉を開けて、草原に降り立つ。その瞬間。両方の護衛達の視線が一斉に集まった。
静かな緊張。誰も武器は抜かない。
だが手は柄の近くにある。
当然だ。国境近く。他国の隊列。緊張しない方がおかしい。
その時――
向こうのアンテナ付き馬車の扉も開いた。
そこから一人の少女が降りてくる。
金髪。この世界では珍しくない姿。
私は思わず笑ってしまった。
向こうの少女が、少し不思議そうにこちらを見る。
そして口を開いた。
「……ゆきちゃん?」
私は小さく肩をすくめる。
そりゃそうだ。
向こうから見れば分からない。
私だって、この世界では別の顔。
草原の上。二人の少女が向かい合う。
風が静かに吹いた。
その瞬間。
向こうの少女が目を見開いた。
「……まきちゃん?」
私は笑った。
「そうよ、ゆきちゃん」
そして続ける。
「お久しぶり!」
少し考えてから言った。
「五年ぶりになるのかしら?」
周囲の護衛達がざわつく。
「五年……?」
「どういう事だ?」
当然だ。彼らには意味が分からない。
でも。そんな事は私達には関係なかった。
ゆきちゃんが一歩近づく。
「……本当にゆきちゃん?」
私は頷く。
「本当にまきちゃん?」
そしてまきちゃんはニヤリと笑った。
「ポンコツM13/40が好きな、あの?」
ゆきちゃんの顔が一瞬で変わる。
そしてすぐ返してくる。
「あーん?」
「そっちこそブリキ装甲の九五式軽戦車好きな?」
一瞬の沈黙。
そして――
「「あはは!」」
私達は同時に笑った。
「「間違いない!」」
私は思わず言った。
「よかった!」
「無事で!」
ゆきちゃんが肩をすくめる。
「まあ無事って事は無いんだけどね」
私は苦笑する。
「あはは!」
「確かにそうね!」
転生。事故。異世界。
普通に考えれば無事ではない。
それでも。私達は生きている。
それだけで十分だった。
「元気にしてた?」
「してたわよ」
そして笑う。
「まあスキルのお陰で忙しくなったけどね」
「私もそうね」
領地改革。産業。測量。通信。
毎日忙しい。
だけど――私は言った。
「でも」
「お互い、住みやすくってのは共通ね」
「そうね」
そして少し真面目な顔になる。
「お互いの力を合わせれば、もっと良くなる」
私は頷いた。
「そうね」
「私もそう思う」
しかしゆきちゃんの表情が少しだけ曇る。
「けどね」
私はすぐ理解した。
「……ここの環境よね?」
ゆきちゃんは静かに頷いた。
「昔話は私も聞いたわ」
私は空を見上げた。
旧南国。かつて存在した国。
今は二つの大国に分断されている。
私は小さく苦笑する。
「今は引き裂かれた旧南国」
ゆきちゃんが頷く。
「そうね」
私は続けた。
「その辺は今すぐ私達がどうこう出来る話じゃない」
ゆきちゃんも同意する。
「確かに」
草原の風が静かに吹いた。
二人の転生者。
二つの領地。
二つの物語。
それが今、初めて同じ場所に立っている。
世界はまだ簡単には変わらない。
私はゆきちゃんを見て笑った。
「とりあえず」
「積もる話は山ほどあるわね」
ゆきちゃんも笑った。
「そうね」
五年越しの再会。
それは――まだ始まったばかりだった。




