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国境から始まる工業革命 ―転生エンジニア領地開発記―  作者:


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夜空の合図

その日の夜。

予定通り――三の刻。


私は専用馬車の中にある移動式無線機の前に座り、ゆっくりと装置を立ち上げた。


小さな雑音が流れ始める。


ザー……。


私はイヤホンを耳に当て、静かに待つ。


外は静かな草原の夜。

虫の声と、遠くの風の音だけ。


ザー……。ザー……。


雑音が続く。すると突然――


「こちらフジ!こちらフジ!」


聞こえた。ノイズの向こうから。

私は思わず身を乗り出す。


「さくら!さくら!」


すぐに声が返ってくる。


「聞こえた様ね!」


私は思わず笑った。


「聞こえる!」


胸の奥が少し高鳴る。


そして私は続けた。


「どうやら二十キロ以内にはお互い居る様ね」


無線の届き方から計算すると、それくらいの距離。

向こうからも嬉しそうな声が返る。


「そうだね!」


少し弾んだ声だった。


そして、私が言う。


「昨日、信号弾上げた?」


まきちゃんは頷くように答える。


「上げたよ!」


そして聞く。


「見えた?」


私は思わず笑った。


「かなり遠くに!」


やっぱりあれだった。


昨夜の光。まきちゃんはすぐに言った。


「それなら無線終わったら打ち上げるわよ!」


向こうがすぐ答える。


「解った!五、六発上げて!」


少し笑い声が混じる。


「じゃあ、今から三分後くらいに上げるから方向見て!」


「解った!」


私はさらに言った。


「明日、私から向かうよ!」


少し間があって――


「おっけー!」


短いが、嬉しそうな声だった。

通信はそこで終わる。

私はゆっくり無線機のスイッチを切った。


馬車の外へ出る。夜空を見上げる。

草原の夜は静かだ。

護衛達も少し緊張した様子で、空を見ている。


「信号弾ですか?」


一人の護衛が小さく聞いた。

私は頷いた。


「ええ」


「……三分」


私は呟いた。静かな夜。

時間がゆっくり流れる。


そして――遠くの空に、光が上がった。


パァン!


夜空に小さな光が弾けた。

暗い空の中で、鮮やかに広がる光。


まるで――


「私はここにいるよ」


そう伝えているようだった。

少し間を空けて。


二発目そして続けて合計六発。

私は静かに空を見上げる。


「まきちゃん……」


私は小さく呟いた。


「私は見つけたわよ」


二十キロ。それだけの距離。

前世では、すぐ会える距離かもしれない。


だがこの世界では――とても遠い。

私はここにいる。そう伝えるための光。


同じ空の下。同じ世界。

遠く離れていたはずの友達。


でも今は――たった二十キロ。


私は空を見上げた。胸が少し高鳴る。


「……早ければ明日」


会える。この世界で初めて同郷の友達に、話したいことは山ほどある。


技術と領地に鉄鉱石。そして国境。


そして――この世界の未来。

私は小さく笑った。


「明日向かうからね」


夜空には、まだ光の余韻が残っていた。

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