夜空の光
私はこの小さな村の村長と、早速話を始めていた。
粗末だが手入れされた木造の家。
村長の家兼、村の集会所らしい。
年配の村長は、私の話を真剣な顔で聞いていた。
「なるほど……鉄鉱石の増産ですか」
私は頷く。
「ええ」
「今後かなり使う予定なの」
村長は少し困った顔をした。
「お嬢様のお役に立てるなら嬉しいのですが……」
「難しい?」
私は率直に聞いた。
村長は少し考えてから言った。
「実はですね……」
話をまとめると、こうだった。
この村では鉄鉱石は常に採掘しているわけではない。
需要が少ない。
だから――年に二、三回。
まとめて掘る。
在庫がなくなったら、また掘る。
そんな流れだという。
私は腕を組んだ。
「なるほど」
つまり常時採掘ではない。必要な時だけ。
村長は続ける。
「村の仕事は放牧と小麦が中心です」
「鉄はあくまで副業のようなもの」
つまり片手間。
最低限の人数で、最低限の量。
それだけ。
「急に需要が増えても……」
村長は苦笑した。
「人が足りません」
私は思わず天井を見た。
あちゃー……。
まさにそれ。致命的な人手不足。
村の人数は限られている。
鉄を掘れば――今度は畑が回らない。
放牧も回らない。
逆も同じ。
農業を優先すれば鉱山が止まる。
村としては当然、生活優先だ。
私は村長に礼を言って馬車へ戻った。
夜。専用馬車の中。
私は簡易ベッドに寝転びながら天井を見ていた。
「うーん……」
鉄鉱石は欲しい。かなり欲しい。
今後の産業に必要だ。
人がいない。私はゴロゴロと寝返りを打つ。
「また経済奴隷か……」
その言葉が頭に浮かぶ。
すぐにため息が出た。
簡単な話ではない。
村に急に人を入れれば、生活のバランスも崩れる。
慎重にやらないといけない。
私は考えながら目を閉じた。
その時だった。
……ん?
何か音がしたような。私は目を開けた。
静かな夜。だが、確かに何か聞こえた。
私はすぐに馬車から飛び出した。
夜空を見上げる。
星が綺麗だ。
護衛の騎士たちも外を見ている。
一人が剣に手をかけていた。
「聞こえましたか?」
私は頷いた。
「ええ」
気のせいではない。
その時――また音がした。
シュン……!
護衛が指を差した。
「あそこ!」
私はそちらを見る。
遠く。かなり遠い。
暗い空の中に、一瞬だけ光が走った。
「光?」
護衛が言う。
「魔法でしょうか?」
私は目を細めた。
いや。あの軌道。あの光り方。
私は思わず呟いた。
「……発光弾?」
まさか。まきちゃん?
私は慌てて馬車に戻った。
無線機を取り出しスイッチを入れる。
「こちらさくら、さくら」
ノイズ。
ザー……。
「こちらさくら、応答願います」
ザー……。
返事はない。雑音だけ。
私は少し眉をひそめた。
「……時間がズレた?」
通信時間ではない。
だから電源を入れていない可能性が高い。
私は無線機を見つめた。
そして決めた。
「明日からは常時起動ね」
少なくとも夜は。もし本当にまきちゃんが近くまで来ているなら――
通信のチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう一度夜空を見た。
さっきの光はもう消えている。
確かに見た。私は小さく呟いた。
「近いのかもね」




