出発の日
数十日が過ぎたある日。
ついに――私の領内視察の準備が整った。
目的地は、主に国境方面。
測量隊が進めている三角測量の確認。
鉄鉱石の鉱山調査。
街道と村の状況確認。
そして産業の拡張のための下調べ。
期間は――約半年。
長い。しかし領内の広さを考えれば妥当な日数だ。
領主館の中庭には、準備された馬車が並んでいる。
私専用の馬車。護衛の馬車。
物資を積んだ荷馬車。簡易の護衛隊。
視察隊としては、それなりの規模だ。
私は専用馬車の側に立ち、ゆっくり周囲を見回した。
これからしばらく、領主館を離れる。
前世も含めて、こんな長距離の旅は初めてだ。
だが不安より――楽しみの方が大きい。
私はふっと笑った。
「さて」
今回の行程は、まきちゃんと話し合って決めたものでもある。
彼女の側でも同じように、視察を兼ねた移動を始める予定だ。
街道。村。資源。地形。
互いの領地を調べながら進む。
そして運が良ければ――合流。
とはいえ。
それはあくまで「出来れば」の話だ。
通信での打ち合わせでも決めた。
無理に会おうとしない。
お互い、やる事は多い。
測量。鉱山。道路。産業。
途中で予定が変わる可能性も高い。
だからもし会えなかったとしても――
それで終わりではない。
「一回目が二回目になるだけ」
私は小さく呟いた。
機会はまた作ればいい。
次がある。
そう思っておけば、気持ちも楽だ。
無理に予定を詰めるより、その方がいい。
私は大きく背伸びをした。
朝の空気が気持ちいい。
護衛の騎士たちが、馬の準備をしている。
荷物の固定を確認する使用人。
地図を確認している文官。
皆、忙しそうだ。
私は軽く手を叩いた。
「さー!」
全員の視線がこちらに向く。
私は笑って言った。
「皆んな、行くわよ!」
馬車の御者が頷く。
護衛隊長も静かに頭を下げた。
いよいよ出発だ。
私は専用馬車の扉を開け、中へ入る。
簡易ベッド。机。棚。無線機。
準備は万端。
御者が声を上げる。
「出発!」
馬がゆっくりと歩き出す。
車輪が回る。領主館の門をくぐる。
私は窓から外を見た。
見慣れた景色が、ゆっくり遠ざかっていく。
これが――初めての長距離移動。
領内の奥へ。国境へ。
そして、もしかしたらまきちゃんの近くへ。
私は静かに呟いた。
「どうなるかしらね」
不安は少し。期待は大きい。
未知の道。
未知の景色。
この世界は、まだ知らない場所だらけだ。
私は窓の外の風景を見ながら笑った。
「どんな風景が待っているのか、楽しみね」




