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国境から始まる工業革命 ―転生エンジニア領地開発記―  作者:


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動く研究室

私専用の荷馬車か。

私は研究室の机に頬杖をつきながら、思わず笑った。


「専用って響きが良いわね」


前世では、車を持つのも大変だった。

それが今は――専用の馬車。

しかも自分で設計できる。

私は早速、紙を広げた。

ただの移動用ではつまらない。


どうせ作るなら――


「キャンピングカー的なのがいいわね」


私はペンを走らせる。


寝床。収納。机。道具箱。

無線機の設置場所。簡易調理スペース。

移動中でも作業できるようにしたい。


地図。測量道具。通信装置。


長距離移動を考えるなら、休憩場所も必要だ。


「寝床はちゃんと作って……」


揺れ対策。固定式の棚。窓の配置。

換気。扇風機も置けるかもしれない。

発電設備は小型にするか、蓄電池を積むか。


考え始めると止まらない。


私は図面を見ながら満足そうに頷いた。


「いいわね」


だが、ふと手が止まる。


「……でも」


作っても。外出させてくれるかな?

私は少し天井を見上げた。


領主の娘でそれも跡取り。

遠出は簡単ではない。

今までも基本は領主館周辺。


市場。工房。発電施設。

国境近くまで行くとなると話は別だ。


「作ってもダメって言われたら嫌ね」


せっかく作ったのに使えなのは悲しい。

私は少し考えた。今すぐ外出というわけではない。


地図作成。鉱山調査。

まきちゃんとの合流候補地。

その内必要になる。


「……そうね」


私は小さく頷いた。今すぐではない。

その内にという形にしておこう。


私は席を立った。


廊下を歩き、執務室の前に立つ。

コンコンと扉を叩く。


「入れ」


低い声。私は扉を開けた。


「お父様」


領主は机の向こうで書類を見ている。

私は真っ直ぐ言った。


「今すぐではありませんが領内を回りたいので、長距離外出の了解をお願いします」


ペンが止まる。

お父様はゆっくり顔を上げた。


「ほぅ……」


しばらく沈黙。


私は静かに待つ。


お父様は椅子に深く座り直した。


「理由は?」


「現地確認です」


私は答える。


「測量、鉱山、道路、工房等の現場を直接見たいんです」


書類だけでは分からない。


空気。距離。動線。技術改善。

全部、現地を見る方が早い。


お父様は腕を組んでしばらく考えている。

部屋は静かだ。

やがて、ゆっくりと口を開いた。


「確かに……」


私は顔を上げる。


「今までの実績を踏まえると」


お父様は続ける。


「現地で直接、というのも理解できる」


私は小さく息を吐いた。

悪くない反応。


お父様は椅子の背に寄りかかる。


「護衛は必要だ」


「はい」


「計画も出せ」


「はい」


さらに数秒後、そして


「よし」


私は思わず姿勢を正す。


「解った」


お父様は静かに言った。


「決まったら日にちを教えろ」


「許可する」


私は思わず笑顔になった。


「ありがとうございます」


研究室へ戻りながら、私は小さく呟いた。


「これで動ける」


専用馬車。移動通信機。測量。鉱山。


そして――まきちゃん。

距離はまだ遠い。


少しずつ確実に近づいている。

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