動く通信
その日、商隊が領主館へ荷物を運んできた。
木箱がいくつも荷馬車から降ろされていく。
商人が頭を下げて言った。
「お嬢様宛ての荷でございます」
私は箱の側面を見て、すぐに気付いた。
「……フジ印」
まきちゃんの荷物だ。
けれど、今回の件については何も聞いていない。
「何かしら?」
私は箱を軽く叩いてみた!そこそこ重い。
しかも大きい。
「研究室へ運び込んで」
使用人たちに指示を出す。
数人がかりで箱は研究室へと運ばれていった。
私はナイフで封を切り蓋を開ける。
中には――金属の筐体。
部品。アンテナ。蓄電装置。
そして見慣れた構造。
「……九四式四号丁無線機?」
思わず呟いた。
もちろん、そのままではない。
まきちゃんが改造した――異世界型。
私は腕を組む。
「この大きさ……」
机の上に置いてみる。
先日の通信機よりも小さいから据え置きではない。
持ち運び前提。
つまり――
「移動用?」
わざわざこれを送ってきた理由。
通信距離を伸ばすため?
いや。それよりも――私はふっと考えた。
「移動を前提にしてるって事?」
そういう事よね。だが理由が分からない。
「……夜に聞いてみるか」
私は箱を閉じ、いつもの通信時間を待った。
夜の三の刻。
研究室の灯りの下。
私は無線機のスイッチを入れる。
「こちらさくら!こちらさくら!」
少しの雑音。すぐに返答。
「こちらフジ、受信状況オッケー!」
まきちゃんの声。
私は早速聞いた。
「あの移動式の無線機届いたけど?」
「あー、届いた?」
向こうが軽く笑う。
「お互い移動し始めたら、連絡手段ないでしょ」
「なるほど」
確かにそうだ。
据え置き通信機では、研究室にいないと話せない。
だが移動式なら――外でも通信できる。
ゆきちゃんが続けた。
「こっちの地図も大分できてきたから」
「何処かお互いに近い場所で、その内に会えないかと思って!」
私は思わず笑った。
「成る程ね!」
直接会うのは確かに、その方が話は早い。
技術。情報。計画。
通信だけでは限界がある。
私は少し考えて言った。
「それなら私専用の馬車を作ろうかな?」
「いいと思う!」
まきちゃんも乗り気だ。
「私も造るよ!」
通信の向こうで笑い声が聞こえる。
そして、まきちゃんが思い出したように言った。
「それとさー」
「なに?」
「曖昧国境線付近で鉄鉱石が見つかったのよ」
私は少し驚いた。
「えー、そうなんだ!」
鉄鉱石。
今まさに問題になっている資源だ。
ゆきちゃんは続ける。
「そこで私達だけでも共同で開発出来ないかと思って」
なるほど。国境問題を避けつつ。
二人で開発は賢いやり方だ。
私は聞いた。
「その場所は、どのあたりの位置?」
まきちゃんは地図を見ているようだった。
「えーっと……」
少し間。
「私の所からだと南南東の丘の南側あたり」
私は思わず立ち上がった。
「ちょっと待って!」
「ん?」
「それ、うちの村の近くの鉄鉱石採れる所の近くよ!」
通信の向こうで沈黙。
そして。
「あちゃー……」
まきちゃんの声が聞こえた。
私は笑いながら言った。
「お安く売りまっせ」
「……村が近くにあるとそうなるか……まあいいわ」
「え?」
「輸入に切り替える」
向こうも苦笑している。
「毎度ありー」
私は苦笑した。
「安くしてよ?」
「友達価格で」
国境。鉱山。
地図が正確になればなるほど。
境界の曖昧さも、資源の位置も見えてくる。
私は椅子に座り直した。
「まあ、悪い話じゃないわね」
鉄鉱石。
それは――
二つの領地を繋ぐ、最初の産業になるかもしれない。




