金属の壁
扇風機の試作品は完成した。
私は研究室の机の上に置かれた装置を眺めながら、腕を組む。
木製の台座。
金属の回転軸。
そして三枚の羽。
スイッチを入れる。
ブゥン――
羽が回り、空気が動く。
研究室の空気がふわりと流れた。
私は手をかざしてみる。
「ん〜……」
悪くない。いや、かなりいい。
この世界では、基本的に風は自然任せだ。
窓を開けるか、うちわで仰ぐか。
それだけ。この機械なら、風を作れる。
しかも電動。
「うん。いい!」
私は満足して頷いた。
「これは早速、生産し始めるか」
発電施設もある。配線も整っている。
技術的な問題はない。そう思った時だった。
「お嬢様!」
研究室の扉が開き、文官が顔を出した。
「ん〜?」
私は扇風機を回したまま振り向く。
「ちょっとご相談が……」
「なぁに?」
文官は少し言いづらそうな顔をしている。
「ここ最近、お嬢様の造る物に金属の使用量が増えておりまして……」
「あー」
私は思わず頷いた。
確かに。電灯。発電設備。ポンプ。
洗濯機。そして扇風機。
どれも回転軸や構造部品に金属が必要だ。
木材だけでは限界がある。
「金属は輸入?」
私は軽く聞いた。
文官は首を横に振る。
「いいえ。領内で産出されております」
「なら、増産をお願い」
私は即答した。
簡単な話だ。
採れるなら掘ればいい。
……はず。
だが文官は困った顔のままだ。
「いや〜……」
「ん?」
「人手が……」
私は思わず天井を見上げた。
「あちゃー」
またそこか。
どこに行っても、結局は人手不足。
発電施設。洗濯事業。
測量隊。工房。
全部人が必要だ。
私は椅子にもたれた。
「さて……」
また経済奴隷?
その選択肢が頭に浮かぶ。
正直、気が進まない。
現実問題として、労働力は必要だ。
私は小さくため息をついた。
「ふぅ〜……」
「産出場所は?」
文官はすぐに帳面を開く。
「えっと……」
「国境近辺に一箇所」
私は眉を上げる。
国境?
「もう一つが、領内中央で少量です」
なるほど。
中央の鉱床は小さい。
だから国境の方が主力。
私は机の上の地図を広げた。
測量途中の地図。
三角測量の点がいくつも描かれている。
その端。国境付近。
「……ここか」
私は指で示した。
文官が頷く。
「はい」
私は腕を組んだ。
うーむ。実際に見てみたい。
鉱山。規模。採掘方法。効率。改善点。
スキルを使えば、色々分かるかもしれない。
問題が一つ。国境。
測量でも微妙な位置だった場所。
私は少し考え込んだ。
「本当は、見に行きたい所だけど」
文官が静かに言う。
「危険ですか?」
私は首を横に振る。
「いや」
危険というより――面倒な可能性。
国境問題。領地争い。外交。
まだ火を付けたくない。
私は地図を見ながら呟いた。
「でも、放置も出来ないわね」
金属は基盤だ。
これが足りなければ、技術も産業も止まる。
私はゆっくり地図を畳んだ。
「調査隊を出しましょう」
文官が顔を上げる。
「鉱山の現状を確認」
「採掘量」
「人員」
「設備」
全部洗い出しそれから判断する。
私は扇風機を見た。
羽は静かに回っている。
風が机の上の紙を揺らした。
文明は進んでいる。
その裏では資源、人手。
現実の問題が、確実に積み上がっていた。




