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国境から始まる工業革命 ―転生エンジニア領地開発記―  作者:


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ずれた境界線

夜の三の刻。

研究室の灯りの下、私は無線機のスイッチを入れた。


「こちらフジ!こちらフジ!」


少しの雑音。そしてすぐに返答が来る。


「こちらさくら、聞こえるわよー」


ゆきちゃんの声だ。

私は早速、本題に入った。


「こっちの観測隊が、国境に達したの」


「お、早いね」


「それでね……二キロほどズレてるのよ」


一瞬の沈黙。

そして向こうから、少し驚いた声。


「あー。こっちもズレてる!」


私は思わず身を乗り出した。


「何キロ?」


「二キロ。私の方に食い込んでるわよ」


「え!?私の方が?」


「そうだよ!」


ゆきちゃんは笑いながら続ける。


「こっちでは、二キロ食い込まれてるわよ」


私は思わず黙り込んだ。

頭の中で地図を整理する。

私の側では、こちらが削られている。

ゆきちゃんの側では、向こうが削られている。


つまり――


「……元がおかしいって事?」


「そうなるね」


私達は同時に苦笑した。

この世界の地図は、とにかく雑だ。

川の位置が違う。丘の距離が違う。

街道も歪んでいる。


そんな地図を基準に国境を引けば――


当然、ズレる。


ゆきちゃんが軽く言う。


「まあ、それならそれでいいんじゃない?」


「どういう意味?」


「どうせ何も無い地区でしょ?」


確かに。その辺りは荒れ地だ。

小さな森と丘があるだけ。

村も無い。資源も確認されていない。


私は地図を見ながら頷いた。


「……まあ、言われてみれば」


元の地図がめちゃくちゃだ。


その上に引かれた国境線なら、多少ズレていても不思議ではない。


ゆきちゃんが笑う。


「そのままでいいんじゃない?」


私は肩の力を抜いた。


「そうね」


今ここで国境問題を騒げば、余計な火種になる。


王家。帝国。外交問題。

まだそんな段階じゃない。

私は無線機に向かって言った。


「なら、その辺りはそのままで」


「そうしましょうか」


しばらく静かな雑談が続く。

そしてゆきちゃんがふと思い出したように言った。


「まきちゃん」


「なに?」


「この無線機ってさ」


「うん?」


「どこまで飛ぶ様に設計したの?」


私は少し考えた。


魔石出力。アンテナ長。周波数帯。理論値。


「そうね……」


私は答えた。


「約五百〜六百キロくらい」


ゆきちゃんが少し黙る。


「となると……」


「うん?」


「単純に、それくらいの距離って事か」


私は笑った。


「まあ、そうなるね」


馬車で何日もかかる距離。


電波なら一瞬。

ゆきちゃんがぽつりと言う。


「そこそこの距離か」


私は椅子に背を預けた。


五百キロ。


それは、決して近くない。


この無線機がある限り――

距離は問題ではない。


私は小さく笑った。


「便利な時代になったわね」


この世界ではまだ誰も知らない。

国境を越える通信。


そしてその裏で地図の上では、一本の線が静かにズレている。


今は小さな問題。


いつか――大きな意味を持つかもしれない。

私は無線機のスイッチを切った。

研究室は静かになる。


遠く離れた場所に、もう一つの灯りがある。


それだけで、少し安心出来た。

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