測る者たち
私は早速、測量器具を机の上に並べた。
木製の脚。
角度を測る装置。
距離測定用の基準具。
記録用の帳面。
これらを見て、文官が首を傾げる。
「お嬢様……これは?」
「地図を作る道具よ」
私は一つ一つ手に取りながら説明する。
「まず基準点を決める」
「そこから距離を測る」
「次に角度」
「そして三点を結ぶ」
文官は真剣な顔で聞いている。
私は続けた。
「三角形を作るの」
「三角形?」
「そう。三つの点が分かれば、位置が分かる」
私は紙の上に三角形を書いた。
「この方法を繰り返していく」
「そうすると、広い範囲でも正確な位置が出せる」
文官はしばらく図を見つめ、やがて頷いた。
「……なるほど」
「理解しました」
よし。まずは一人。
文官が理解すれば、指揮が取れる。
私はさらに細かく説明した。
測定位置の決め方。記録方法。
誤差の確認。数値の扱い方。
文官はすべて帳面に書き込んでいく。
数時間後。彼は測量器具を自分で扱えるようになっていた。
「では」
私は地図を机に広げる。
「最初は国境方面」
まきちゃんの領地がある方向。
そこを優先する。
国境線がはっきりすれば、その後の測量も楽になる。
文官はすぐ理解した。
「測量隊を組みます」
「そうして」
私は頷いた。
そして次の問題。
人手。
三角測量は人が必要だ。
基準点に立つ者。距離を測る者。
記録する者。道具を運ぶ者。
人数がいればいるほど早い。
そこで使うのが――経済奴隷。
正直、思うところはある。
だが人手は人手だ。私は現実を見ている。
そして、驚いたことが一つあった。
人はすぐに集まった。
「……多いわね」
私は小さく呟く。経済奴隷の数。
思っていたより多い。
借金。商売失敗。税。飢饉。
理由は様々らしい。
今は深く考えない。
考えすぎても、今すぐ制度は変えられない。
私は目の前の仕事を見る。
測量。地図。領地管理。物流。防衛。
全てに関わる基盤。
文官が報告する。
「測量隊、三組編成できます」
「思ったより早いわね」
「人手が多いので」
私は小さく息を吐く。
……まあ。今は良しとしよう。
私は測量器具を手に取った。
「まず最初の基準点」
領主館近くの丘で見通しがいい。
ここから始める。測量隊が動き出す。
ポールを立て距離を測り角度を測る。
文官が記録する。
私は少し離れた場所からそれを見ていた。
最初はぎこちないが回数を重ねれば慣れる。
この作業は、地味けど重要だ。とても重要だ。正確な地図があれば――
街道整備。水路設計。防衛線。
すべてが変わる。
そして私は遠くの丘を見つめた。
その向こうの国境。さらにその向こう。
まきちゃんの領地。
夜になれば、また通信する。
今日の進捗を伝える。
彼女の測量状況も聞く。
私は小さく笑った。
世界は広いが測れば分かる。
距離も。位置も。
そして――その先にいる仲間との距離も。




