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国境から始まる工業革命 ―転生エンジニア領地開発記―  作者:


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夜の通信

無線機は完成した。


研究室の机の上に置かれた装置は、見た目こそ簡素だが、確かな存在感を放っている。

金属の筐体、調整用のダイヤル、そして送受信口。


まきちゃんが送ってきた部品。

それを私が組み上げた。


つまり――共同作品だ。


さて。そろそろ約束の時間。

私は椅子に腰を下ろし、ゆっくりと装置へ手を伸ばした。


スイッチを入れる。低く、かすかな振動音。

生きている。私はダイヤルを回す。


周波数を合わせる。


そして送信。


「ヒトフタマルハチ」


少し間を置く。


「ヒトフタマルハチ」


もう一度。


「ヒトフタマルハチ」


……。


んー。使い方は合ってる筈だけど。


これは軍式の確認信号。

間違いない。


私は送信口へ顔を寄せた。


「こちらフジ、受信良好」


数秒の沈黙。


そしてノイズの向こうから、はっきりとした声。


「あら!こちらさくら」


私は思わず吹き出した。


「受信状況完璧!流石ね、ゆきちゃん!」


向こうも笑っているのが分かる。


「まきちゃんこそ!懐中電灯のパッケージの考え良かったわよ!」


「さくら印もよ!」


一瞬、二人とも黙る。


そして――同時に言った。


「まさか、二人で転生とは」


私は椅子に深く座り直した。


「私もびっくりよ。こんな事になるとは」


電波の向こうで、まきちゃんが小さく笑う。


「まあそうよね」


少し間。そして彼女が聞いた。


「で?どう?」


「今の所、内政頑張ってるわ」


「私もよ」


声が少し弾む。


「稼がないとね」


「ほんとそれ」


私達は笑った。


この世界は何もかもが曖昧だ。


技術水準。

制度。

資源。


全て手探り。


「何せ、何もかも曖昧な世界でやりづらいからさ」


「確かに」


まきちゃんも同意する。


「私もその辺で苦労してる」


「私もよ」


そこからは、お互いの近況報告。


私の領地の話。


電灯。

水道。

水力発電。


市場の洗濯施設。労働改善。

そして――奴隷制度の存在。

向こうも驚いていた。その代わり、まきちゃんの領地では。


石鹸。

クリーム。

油精製。


そして魔石利用で懐中電灯の開発。


「やっぱり同じ方向に進むわよね」


「そうなるわね」


さらに私は、南の国の歴史を話した。


三国。滅びた南。分断された領土。

国境。沈黙。


やがてまきちゃんが小さく言った。


「なるほどね……」


少し考える気配。


そして。


「つまり、私達は元同じ国の土地にいるって事で合ってるわよね?」


「そうなるわね」


電波の向こうで、短い沈黙。

やがて彼女は笑った。


「面白いじゃない」


私も笑う。


「ほんとね」


通信は長く続けない。

まだ試験段階。出力も安定していない。

周波数も不安定。


今日はここまで。


「また明日」


「同じ時間で」


夜の三の刻。


通信時間。情報交換。


私は送信機のスイッチを落とした。

部屋は静かになる。


窓の外では、水車が回っている。


もう孤独ではない。

国境の向こう。

同じ世界。

同じ記憶。

同じ思考。


私は小さく呟いた。


「やっと話せたわね」


そしてこの夜から私達は毎日、この時間に通信する。


……いや。おしゃべりではない。情報交換だ。

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