繋がる距離
まきちゃんから送られて来た品物は、すべて研究室へ運び込ませた。
木箱は大小合わせて十数個。
工具箱、金属部品、線材、蓄電装置らしきもの、そして丁寧に包まれた精密部品。
私は深く息を吸った。
「さて……」
早速、一つ目の木箱を開ける。
中には整然と並べられた部品群。
見た瞬間、私は思わず苦笑した。
「これは……」
確か、旧日本陸軍の通信機。
九四式二号丙無線機。
「流石、旧日本軍推し……」
まさかこれをベースにして、異世界素材で再構成しているとは。
恐れ入ったわ。
部品は完全に分解された状態で収められている。しかし配置が妙に分かりやすい。
まるで――
「組めるでしょ?」
と言われているみたいだ。
私は別の箱を開ける。
そこには配線用の線材。
蓄電装置。
簡易測定具。
調整用の細かな工具。
そして紙束。設計図。
……いや設計図というより、まきちゃんのメモだ。
私は思わず笑った。
「相変わらずね」
要点だけで説明は最小限。でも必要な情報は全部ある。しかも部品はすべて規格化されている。
つまり――
“組める人間が組めば完成する”。
そういう構成。
私は机の上に布を敷き、部品を並べ始めた。
解析。
スキルが補正をかける。
部品の用途。接続位置。
動作の流れ。視界に整理されていく。
「……便利すぎるわね」
説明書を読む必要すらない。
構造が頭に入る。
私は静かに作業を進める。
金属フレーム。内部構造。
制御部。配線。一つずつ。
焦らずに確認しながら手が自然に動く。
前世の感覚。
エンジニアとしての経験。
それが、この世界の技術と混ざる。
「確かに……」
これは余裕だわ。
まきちゃんがここまで準備した理由も分かる。
私の立場が分からない。
設備があるかも分からない。
だから――全部送った。
工具。予備部品。蓄電装置。
調整器具。そして設計情報。
完全な一式。
普通なら過剰だ。
でも私には必要な物ばかり。
私は小さく呟いた。
「尊敬しかないわ」
ここまでやるとは。あの子、本当に昔からこうだった。
一度決めたら、徹底的に準備する。
そして信頼して送りつける。
“ゆきちゃんなら出来るでしょ”。
そんな声が聞こえる気がした。
私は最後の部品を机に置く。
研究室は静かだ。
外では発電の水車が回っている。
街には電灯が灯っている。
そして今ここに、遠くの誰かと繋がる可能性がある。
私は机の上の装置を見つめた。
もしこれが動けば距離は消える。
隣国。旧南。東西対立。
そんなものを飛び越えて直接話が出来る。
私は少しだけ笑った。
「待たせたわね、まきちゃん」
まだ完成ではないけどもうすぐ。もうすぐ繋がる。
この世界で初めての――転生者同士の会話が。




