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国境から始まる工業革命 ―転生エンジニア領地開発記―  作者:


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回収と循環

洗濯機の実験は、見事に成功した。

上々よ。

特に――洗濯係からの評価が圧倒的だった。


「手が荒れません」


「腰が楽です」


「冬が怖くありません」


これ以上の説得材料は無い。

私は洗濯係の代表と打ち合わせを行った。

現場の声は重要だ。

机上の理論より、実際の動線。


「館内だけでなく、街でも使えそう?」


「十分可能です」


「ただ、家庭に一台は難しいでしょう」


そう。電力、水道、維持費。

個別設置は非現実的。ならば発想を変える。


私は市場へ向かった。人が最も集まる場所。


買い物。雑談。取引。情報の中心。


そこで提案してみる。洗濯物を預ける。

市場で買い物をする。

帰りに回収する。


単純。


分かりやすい。回転効率も良い。

コインランドリーより、クリーニング屋に近い。


だが名前はどうでもいい。

重要なのは流れだ。

私は市場の一角を借り、小屋を設置する。


裏には洗濯機。水道接続。電源接続。

受付係を一名。管理係を一名。


料金は試験価格。


まずは安く利用者を増やす。


「預かります」


「夕方にお渡しします」


商人たちが興味深そうに覗き込む。

最初の客は、果たして来るか。


……来た。


八百屋の妻。


「試しに」


洗濯物を渡す。受付票を渡す。

私は裏で洗濯を開始する。


回転。脱水。干し。香り付け。

乾燥は自然。


数時間後。


「どうぞ」


返却。


布は軽い。柔らかい。香り付き。


「……軽い」


「いつもより白い」


評判はすぐに広がる。市場は噂の拡散装置だ。次々と依頼が来る。


私は冷静に観察する。


・回転数は足りているか

・待ち時間は妥当か

・料金は適正か

・香りの好みは分かれるか


問題があれば、直せば良い。

これが試験運用。

いきなり完璧を目指さない。


私は受付係に言う。


「必ず意見を聞いて」


「不満は必ず記録して」


改善は、現場から生まれる。


夕方。洗濯物を回収する人々の顔は、概ね明るい。


「これなら続けたい」


「時間が浮く」


時間。それが一番の価値だ。

浮いた時間は、仕事に回る。


家族に回る。休息に回る。余裕は、街を安定させる。


私は小屋の前に立ち、静かに思う。


電灯。水道。洗濯。

生活の基盤が変わり始めている。


だらだら生活は遠い。


街が楽になれば、私の負担も減る。

……はず。私は小さく笑う。

文明とは、回収と循環だ。


水が巡り。電気が流れ。洗濯物が回る。

そして金も回る。


市場に組み込まれた時点で、これはもう実験ではない。


事業だ。さてどれだけ広がるか。


そして隣国は、この動きをどう見るか。

私は空を見上げる。


夕暮れの光の下、洗濯物が揺れていた。

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