回る文明
ふふふ。完成したわ〜。
私は胸を張って、領主館裏の作業小屋へと向かった。
そこには、堂々と鎮座する木製の大きな箱。
中には金属軸と回転槽。
配線は既に電源へ接続済み。
水道も引いてある。
そう。業務用大型洗濯機。
当然、最初の設置場所は領主館だ。
実証実験兼ねて、である。
周囲には使用人たちが集まっている。
興味津々。
そりゃそうだ。
今や「お嬢様が作った物=楽ちん製品」という認識が定着しつつある。
「お嬢様? これが洗濯機ですか?」
「服を……洗えると?」
私は腕を組み、にやりと笑う。
「そうよ!」
とは言っても、やり方は知らないだろう。
まずは私が実践。洗濯用に改良した石鹸。
泡立ちを強め、汚れ落ちを優先。
さらに、クリームと保湿剤の技術を応用した柔軟剤。
香り付き。衣類専用。準備万端。
私は洗濯物を回転槽へ投入する。
蛇口を捻り水を流し石鹸を適量。
蓋を閉める。
「さー。動きますぜーい!」
スイッチを入れる。
ゴウン……ゴウン……
ゆっくりと回転が始まる。
おー。と、小さな歓声。
皆、じーっと見ておる。
回る。回る。泡立つ。回る。
「これで三十分ほど待つわ」
「……叩かなくて良いのですか?」
「叩かなくていいの」
「絞らなくて?」
「後でやる」
私はにこやかに答える。
三十分後。回転停止。次は脱水。高速回転。
水が排出される。
「おー!」
再び歓声。私は満足げに頷く。
うんうん。良い反応。
蓋を開ける。取り出す。
「……軽い!」
「水がほとんど無い!」
使用人の目が輝いている。
流石に乾燥機能は無い。
そこまで一気にやると発電容量が足りない。
なので、ここでおしまい。
あとは干すだけ。
それでもこれはめちゃ便利です。
洗濯係が呟く。
「手が……痛くならない」
「冬が……怖くない」
私は内心でガッツポーズ。
これでかなり楽にり労働時間は減る。
体力消耗も減るし手荒れも減る。
文明とはこういうものだ。
流石に一般家庭に各一台は無理無理。
電力。水道。設置費用。維持管理。
現実的ではない。
ならば――私はふと考える。
共用施設。コインランドリー的なもの。
利用料を払えば使える。
時間制。管理人常駐。水と電力は集中管理。
これなら可能。
「皆、もし街に同じものがあったら使う?」
「使います!」
即答。
「お金を払っても?」
「払います!」
洗濯係が力強く言う。
なるほど!需要はある!ならば試験的に一箇所。市場近くか。水源に近い所。発電拠点の近く。
私は静かに思う。
電灯。水道。洗濯機。
一つ一つは小さい。
確実に生活は変わっている。
隣国が魔石を蓄え、光を売るなら。
私は労働を軽くする。争うのではない。
進む方向が違うだけだ。
私は洗濯槽を見つめながら、小さく笑った。
だらだら生活は遠い。
皆が楽になればいずれ、私も楽になる。
……多分。文明は回る。水も回る。
そして今は洗濯槽も回っている。
次は――街を回す番だ。




