灯りの次は
領主館に電灯が灯って、数日。
結果は――上々よ!夜でも廊下は明るい。
油の補充は不要。煙も匂いも無し。
火の番も不要。
最初は恐る恐るだった使用人たちも、今では普通に使っている。
人は慣れるのが早い。
それだけ“便利”ということだ。
そして私は、ついでにやった水道。
井戸から館内まで管を引き、台所に蛇口を取り付けた。
捻れば出る。止めれば止まる。
料理人さんが、目を丸くしていた。
「桶を運ばなくて良いのですか……?」
「重労働が減るでしょう?」
「減りますどころではありません!」
厨房の空気が明るい。
水汲みの往復が無くなるだけで、作業効率は跳ね上がる。
私は腕を組み、満足げに頷いた。
その代償はあった。
午前中――お父様による事情聴取。
「発電の仕組みを説明しろ」
「安全性はどう確保している」
「感電とは何だ」
「雷との違いは」
……説明に、説明。
図を描き。流れを示し。
理屈を噛み砕き。
疲れた。非常に疲れた。
優雅なだらだら生活は、まだまだ見えない。
最後にお父様は言った。
「悪くない」
その一言で報われるから困る。
水道に関しては、各井戸へ順次設置する方向。まずは領主館周辺。
次に街の中心部。
段階的に電気に関しては、
「当面は館内のみ」
との判断。まあ妥当だ。発電容量も限界がある。技術者も足りない。
私は正直に言った。
「人手が足りませんがなぁ」
お父様は腕を組み、
「どうにかする」
と。
どうにかって……笑。
兵を回すのか?職人を育てるのか?他領から呼ぶのか?
まあ、その辺はお任せします〜。
私は技術担当。
人材調達は経営側の仕事だ。
さて。次は何をするかな?
電気も通った。水道も引いた。
生活は確実に変わり始めている。
次に大変そうなのは――
洗濯。
館の裏庭で、洗濯係が桶を並べ、布を叩いている。
重労働。冬は地獄。水道が来ても、作業自体は手作業だ。
私は目を細める。
業務用の大型洗濯機を作りますか。
電動。回転。撹拌。脱水。
……便利すぎて怖いわ。
早速設計。水量。回転数。負荷。
布の損傷率。
この世界の素材強度に合わせて補正。
木製の外装。金属の回転軸。防水加工。
解析とエンジニアが、設計図を整理していく。
やはりこのスキル、便利すぎる。
私は一瞬だけ思う。
文明を加速させ過ぎていないか?
すぐに打ち消す。これは生活向上だ。
人を楽にする技術。
労働時間が減れば、余裕が生まれる。
余裕は不満を減らす。
不満が減れば安定する。
理に適っている。
「必要な材料を集めますか」
木材。金属軸。防水布。歯車。
そして――電力。
私は窓の外を見る。
夜。領主館の灯りが静かに輝いている。
その光の下で、次の設計図を描く。
だらだら生活は遠い。
もし洗濯が楽になり、水汲みが減り、夜が明るくなれば、いずれ時間が生まれる。
その時間で私は、のんびり出来る。
……はず。
私は小さく笑った。文明は止まらない。
そして私も、止まらない。
次は回す。水ではなく洗濯槽を。




