フジ印
数日後。
他領地から買い集めた魔石が、大量の木箱に詰められて領地へと運び込まれた。
馬車が列をなし、倉庫へと積み上げられていく。
壮観だ。恐らくこれで各地は魔石不足になったはず。
しかもこの世界の情報伝達は、前世より遥かに遅い。
私たちは先回り出来た。
クズ魔石も含め、ほぼ通常価格で押さえられた。
今、市場では不足気味。
隣国が買い漁っているなら、こちらは小出しにして高値で流す。
需給を読む。
流れを握る。
……まあまあの儲けになりそうね。
私は在庫一覧を眺めながら、軽く頷いた。
その時、扉が開く。
「お嬢様!魔石の行き先が解りました!」
文官が息を切らしている。
「隣国では?」
「はい、ですが……これをご覧ください」
差し出されたのは、小箱。
木製の筒のような形。
片端に透明な板。
私は眉をひそめる。
「これは?」
「隣国で販売され始めた商品です」
箱の表面を見た瞬間。私は凍りついた。
ローマ字でFUJI。
しかも富士山の図案。
その背後に、赤い丸。日の丸。
私は一瞬、呼吸を忘れた。
「フジ印、と呼ばれているそうです」
懐中電灯。
私は震える手でそれを持ち上げた。
構造は単純。
内部に魔石を装填する空間。
先端に光源魔道具。
解析。
視界に情報が浮かぶ。
――魔石蓄積式光源器具
魔力消費:安定
持続時間:長
充填機構:外部魔力供給対応
……。
これに魔石を使っている。
しかも。思いっきり乾電池の使い方じゃないの。魔石を“電池”として使う。
消耗すれば充填。蓄電池運用。
となると魔力充電を完成させている。
私はゆっくりと息を吐いた。
平和的な用途だ。灯り。夜間作業。軍事ではない。
だがこの発想にこのロゴ。
これは偶然ではない。
富士。フジ。日の丸。
同郷は確定。
隣国に、同じ境遇の者がいる。
転生者。前世の記憶持ちしかも、私と同じ方向性。
電池発想。規格化。ブランド化。
私は思わず笑いそうになる。
面白いが、だが同時に怖い。
もしその者が、私と同じ様に考えているなら。
味方になれば強い。
技術共有。
情報共有。
共に時代を進められる。
もし違うなら?もし武力へ傾いたなら?
魔石を蓄え充填技術を持ち。
量産体制を整えた国。
……危険だ。
私は机に置かれた魔石を見た。
小さな石。今や価値は跳ね上がっている。
隣国は、平和的商品を売っている。
その裏で軍備転用は可能だ。
光源は一例。
魔力放出器。加速器。増幅器。
可能性はいくらでもある。
私は静かに言った。
「市場でフジ印の動きを追いなさい」
「はい」
「数量、販売先、価格変動」
流れを読む。敵か味方かはまだ分からない。
一つは確定した。私は独りではない。
この世界に、同郷がいる。
それが救いか、脅威か。まだ分からない。
私は窓の外を見る。
夕暮れの領地は静かだしかしその向こう。
隣国では、別の“さくら”が咲いているのかもしれない。
私は小さく呟く。
「会ってみたいわね……」
その時が、平和な形で来る保証はない。




