魔石の流れ
美容液は無事に完成した。
試作品をお母様やメイドたちへ渡し、数日様子を見る。
結果は――大成功。
「肌の調子が良いわ!」
「夜塗ると朝が違います!」
お母様は満面の笑みで宣言した。
「製造を開始します」
決断が早い。さらに、
「香り違いも必要よ」
と提案。
確かに甘め、爽やか系、落ち着いた香り。
何種類かあれば選ぶ楽しみがある。
私は追加試作を行い、配合を調整。
石鹸やクリームとは違い、美容液は工程が全く別物だ。
温度管理も異なる。保管も繊細。
結果――
新たな工場を建てる流れになった。
……規模が拡大している。
今回は、私はほぼ丸投げだ。
製造はお母様と商人側が主導。
私は開発と品質管理に専念出来る。
よし。私は再び研究室へ籠る。
規格の整備。工具の精度向上。
次の生活改善品の構想。
順調だ……その時だった。
商人経由で、市場から知らせが入る。
「お嬢様」
「何?」
「魔石が買い占められております」
私は顔を上げた。ん?魔石?
「はい。価格が上昇しております」
私は椅子に座り直す。
市場の異常。
これは私が仕組んだ報告対象の一つだ。
極端な価格変動。
「魔石って、どんな風に使うの?」
私は素直に尋ねる。
「本来は観賞用が主ですで装飾品や魔道具の飾りや補正が付きます」
……
「ですが今回は、質を問わず買い取ると」
「クズ魔石も含めて?」
「はい」
私は眉をひそめた。
観賞用なら質が重要なはず。
なぜ“質を問わない”?
「誰が買っているの?」
商人は少し声を落とした。
「隣国の領地が買い集めている様で……」
……。
静かに空気が変わる。隣国が大量買い。
質を問わないとなると、これは単なる装飾ではない。
私は頭の中で可能性を並べる。
魔石は魔力を含む鉱石。
確か加工すれば魔道具の触媒になる。
魔力増幅。魔法補助。
……あるいは、兵器?
私はまだ、魔石を直接見たことがない。
市場で見た素材は毛皮や骨ばかりだった。
魔石は高価で、扱いが限られているのだろう。
「何でも良いから、魔石を一つ買って来て」
私は言った。
「私に見せて」
商人は一礼する。
「直ちに」
扉が閉まる。
私はゆっくりと息を吐いた。
隣国が、質を問わず魔石を集めている。
それは――量を必要としているということ。
量を必要とする用途。
大規模。連続。継続。
私は窓の外を見る。
この領地は今、拡大している。
石鹸。クリーム。美容液。規格。工業化。
外でも、何かが動いている?
私はまだ、確信は持てないけど市場は嘘をつかない。
供給が吸い上げられている。
それは事実だ。
数時間後。
小さな包みが研究室へ届けられた。
布を開くと、そこには拳ほどの石。
透明でもなく、濁った輝き。
内部に淡い光が揺れている。
……これが魔石。
私は静かに手を伸ばした。
解析。
魔石:
魔物体内で生成された魔力蓄積結晶。
外部刺激により魔力放出可能。
地球概念換算:乾電池・蓄電池類似。
視界に文字が浮かぶ。
――。
私は思わず息を呑んだ。
これは、観賞用で済ませるには、惜しい代物だ。隣国は、何をするつもりなのか?
そして私はこの石を、どう扱うべきか。




