量産命令
私はその日、ぐーぐーと寝ていた。
お嬢様は好きな時間に起きる者である。
伯爵家の跡取りとはいえ、まだ子供。
優雅な朝を迎える権利くらいあるはずだ。
……と、その時。
バンッ!!
扉が、もの凄い勢いで開いた。
私は文字通り飛び起きた。
「な、何事!?」
そこに立っていたのは――
お母様。しかも、妙にテンションが高い。
「見て!!」
ずいっと顔を近づけられる。
近い。近いです。
「この、ぷるぷるのお肌!」
……あ。昨日渡したクリーム。
頬が確かに、つややかだ。
指で軽く触れると、弾力がある。
おー。効果満点!確かにぷるぷる。
「上手く行ったわね」
私は冷静を装いながら頷く。
内心では、よし!と拳を握っている。
「さぁ!これは売れるわよ!!」
……はい?
「量産しなさい!」
いきなり!?私はまだ、試作品段階だと認識していたのだが。
「メイドたちも、お値段次第では欲しいって言っているのよ」
「それに、厨房や洗濯場の子たちも手が荒れているでしょう?」
……確かに。水仕事は手荒れの原因だ。
需要はある。
「でも場所も、人手も――」
私が言いかけると、お母様はにっこり笑った。
「その辺りは、私に任せなさい!」
何だか妙に頼もしい。
「女性たちのことは、女性に任せなさいな」
フォフォフォー!と謎の笑い声を残し、お母様は去っていった。
……嵐のような人だ。
これは、好機。となると、製品をちょっと真面目に考えないといけない。
私は机に向かい、紙を広げる。
石鹸。クリーム。
原材料。
製造工程。
人件費。
容器。
流通経路。
販売先。
ピコン!頭の中で、何かが弾けた。
両方とも、中身は同じでいい。
貴族用と一般用。
違いは――容器。
貴族用は、高価な容器。
陶器や装飾付きの小瓶。
見た目重視。
一般用は、簡素な木製や素焼きの容器。
中身は同じだが価格帯を分ける。
高級ライン。
普及ライン。
二段構え。
これなら利益率を確保しつつ、広く売れる。
しかも貴族は“特別感”に弱い。
限定容器。香りの違い。名入れ。
いくらでも付加価値をつけられる。
どうせ貴族なんてものは、悪さして稼いでいるのも多いのだ。
……少しくらい、ぼったくっても罰は当たるまい。
いや、言い方は悪いが価格差で一般向けを安く出来るなら、実質的な補助だ。
これは、善行。たぶん。
私はさらに書き進める。
原材料の安定供給。
香料の調達先。
問題ない。
生産拠点は、領都近郊。
人手は、お母様が何とかするだろう。
私は設計と品質管理に集中する。
商品名も考えなければ。
ブランド化。
包装。
販路。
冒険者ギルド横の市場も、悪くない。
だがまずは、貴族社会から。
口コミは早い。
「伯爵家御用達」
この一言は強いし私は確信していた。
これは成功する。
内政は地盤。
商品は拡張。
領地は、確実に強くなる。
強くなれば、安定する。
安定すれば――私は楽が出来る。
だらだら伯爵ライフ。完璧な計画だ。
……本気でそう思った!




