試供と意見
完成した試作品を、私はまず身内に配った。
いきなり市場へ出すほど、私は楽観的ではない。
最初の顧客は、信頼できる観測対象から。
「これは?」
お父様が無表情のまま石鹸を見つめる。
淡い乳白色。
ほんのり花の香り。
「改良した石鹸です。泡立ちと香りを改善しました」
お母様は興味深そうに手に取り、鼻先へ運ぶ。
「……優しい香りね」
その言葉に、私は内心でガッツポーズを決める。
まずは合格。執事やメイドにも配る。
特に重要なのは、後者だ。
日々水仕事をしている彼女たちの意見は、実用性の指標になる。
「お嬢様、これは……泡立ちが細かいですね」
「手の油が落ちやすいです」
「匂いが残らないのが良いです」
率直な感想が返ってくる。
私は一つ一つ、メモを取らせる。
改善点はないか。溶けやすさは。
保管はどうか。
そして――
「いくらなら買いますか?」
直球。メイドたちは顔を見合わせる。
「え……?」
「例えば月給の3%?5%?」
具体的な数字を出す。
彼女たちは少し考え、
「今の石鹸より少し高い程度なら……」
「香りがあるなら、少し贅沢でも」
値段感覚は重要だ。
原価。加工費。販売価格。利益率。
頭の中で計算が回る。
高級品として貴族向けに売るか。
一般向けに量産するか。
段階的展開も可能だ。
お父様はその様子を静かに見ていた。
「売るつもりか」
「はい」
即答。
「衛生は重要です。手洗い、身体の清潔。病も減るはずです」
嘘ではない。前世の常識だ。
同時に、これは商機でもある。
お母様が微笑む。
「あなた、本当に楽しそうね」
……まあ、楽しい。内政は基盤作り。
商品開発は創造。自分の考えが形になる瞬間は、やはり嬉しい。
そして私は次の段階へ進む。
保湿。
石鹸を使えば、当然乾燥するならば、その後のケアも必要だ。
解析。
市場にある油脂類。
植物油。
蜜蝋。
香料。
配合比率を試算。
エンジニアで最適化。
低温で溶かし、攪拌。
冷却。
試作品。
指先に乗せる。……悪くない。
しっとりでべたつかない。
香りは控えめ。
「これは何でしょうか?」
執事が興味を示す。
「クリームです。手の乾燥防止」
メイドたちがざわつく。
「冬に欲しいです」
「ひび割れが減るなら助かります」
……需要、あるな。私は改めて思う。
内政は数字。
商品は感情。
両方が揃えば、領地は強くなる。
市場情報は集めた。
インフラ改良も進めている。
そして今、生活用品の改善。
一見、小さなこと。
でも生活が向上すれば、満足度が上がる。
満足度が上がれば、不満は減る。
不満が減れば、治安は安定する。
全部、繋がっている。私は確信していた。
この流れは良い。とても良い。
石鹸とクリーム。




