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国境から始まる工業革命 ―転生エンジニア領地開発記―  作者:


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流れを掴む者

市場での情報収集体制は、思ったより早く整った。


私は冒険者ギルドと素材市場の双方に、

“異常があれば報告を上げる”仕組みを作った。


具体的には三つ。


一つ。魔物討伐数の急増。

二つ。特定素材の極端な不足。

三つ。価格の急騰、あるいは急落。


このどれかが起きた場合、直接、私の元へ報告が入る。

表向きは「内政研究のため」だが、実質は早期警戒網だ。


市場は嘘をつかない。


不足すれば値段が上がる。

過剰になれば下がる。

国境で何かが起きれば、まず流通に現れる。

それを掴めれば、対策は打てる。


……たぶん。


それとは別に私は領内インフラ改良計画を、正式な文書にまとめた。


道路補修。橋の補強。倉庫の横展開。

水路再設計。優先順位と概算費用、期待効果まで記載。


それを文官経由で提出。


資金配分と実行時期の判断は、お父様たちに丸投げだ。


私は、全部を抱え込むつもりはない。


判断は上。

設計は私。

役割分担。

効率的だ。


そして私は、次の挑戦に移ることにした。

前世で一度はやってみたかったこと。


商品開発。


この世界にも湯浴みの文化はある。

木桶に湯を張り、身体を流す。


だが――石鹸が、微妙。獣臭い。

泡立ちが悪い。洗浄力も、いまひとつ。


解析。


既存石鹸。


――動物性脂肪+灰汁

精製度:低

不純物:多

改良余地:脂肪精製工程/香料添加


なるほど。材料は間違っていない。

工程が粗い。市場で材料を購入する。


植物油。獣脂。灰汁。


そして香料になりそうな植物。

解析で成分を確認。

精製度の高い油脂を選び、不純物の少ない灰を選別。

さらに、乾燥させた花弁や樹皮から抽出した香り成分。


エンジニアで工程を最適化。


温度。攪拌時間。配合比率。試作。


……失敗。


固まらないので配合を再調整。

再試作。今度は硬すぎる。


三度目。


程よい硬さに水を加えてこする。


泡立つ。既存より明らかに細かい泡。

そして――香り。ほんのり甘く、柔らかい。


獣臭はない。


私は思わず笑った。出来た。

香り良い石鹸。


これ、普通に売れるのでは?


衛生向上。匂い軽減。貴族向け高級品。

市場価格も、ある程度は読める。


原材料費。

製造工程。

販売価格。


利益率。……悪くない。


内政は基盤。情報網は目。

商品開発は、利益の種。


私は確信していた。

今の私は、ただの跡取りではない。

流れを掴み、形にする者だ。


市場の動きもインフラもそして商品も。


全ては安定のため。安定すれば、余裕が生まれる。余裕が生まれれば、私は楽が出来る。


そう思っていた。


新しい商品は、必ず目立つ。

目立てば、真似される。

真似されれば、競争が起きる。

競争が起きれば、利害が絡む。


私はまだ知らない。


小さな石鹸が、やがて外交の場にまで波及する可能性を。

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