南から来た品
帝都――。
石畳の通りには、今日も多くの商人が行き交っていた。
その中でも、ひときわ賑わっている店があった。
「おい、それまだあるか?」
「今朝入った分はもう残りわずかだ!」
店主は額に汗を浮かべながら、次々と客を捌いている。
商品は――小さな固形物。
白く、滑らかな表面。
「この石鹸、やっぱり違うな……」
貴族風の男が手に取りながら呟く。
「泡立ちが良い」
「匂いもきつくない」
隣の男も頷く。
「洗った後の感じがな……残らない」
店主は誇らしげに胸を張った。
「でしょ?これ、最近南から入ってきた品なんですよ」
「南?」
貴族が眉をひそめる。
「どの辺だ?」
店主は肩をすくめた。
「さあ……詳しくは。ただ、商人達の間では評判でして一度入ると、すぐに売り切れるんです」
男は石鹸を見つめたまま、低く言う。
「……妙だな」
「妙、ですか?」
「これだけの品質」
指で軽くなぞる。
「今まで無かった」
店主も頷く。
「確かに」
その時、別の男が口を挟んだ。
「それ、石鹸だけじゃないぞ」
皆の視線がそちらに向く。
旅装の男。恐らく商人だ。
「農具もだ」
「農具?」
「ああ」
男は腕を組む。
「南の方で出回ってる道具。妙に使いやすいから効率が上がる」
貴族が目を細める。
「同じ所か?」
「多分な」
店の中に、少しだけ静寂が流れる。
やがて一人が呟いた。
「……誰が作ってる?」
誰も答えない。
店主が小さく言う。
「噂では……」
全員が耳を傾ける。
「貴族、らしいです」
「貴族?」
「ええ」
店主は声を潜めた。
「南の方の、どこかの領で若い方だとか」
男達は顔を見合わせる。
「若い?本当か?」
「さあ……そこまでは」
貴族の一人が石鹸を握ったまま呟く。
「……偶然ではないな」
「同じ方向から複数の良品」
ただの流行ではない。
何かがある。
その時、店の外から声が聞こえた。
「すみません!その石鹸、まだありますか!?」
また客だ。店主は慌てて振り返る。
「あります!あります!」
再び忙しさが戻る。
店の前で、一人の男が静かに呟いた。
「……南、か」
その視線は、遠くを見ていた。
まだ誰も知らない。
鉄も。道も。街も。
確かに何かが、そこにある。
王都はまだその“入口”に触れただけだった。




