揺れる判断
「あの対応で、良かったのかしら?」
私は椅子にもたれながら、ぽつりと呟いた。
盗難の件。
捕まえた男に対して、労働での弁済を選んだ。
「それとも甘すぎたかしら?」
天井を見上げる。
厳しくするべきだったのか。
それともあれで正解だったのか。
答えは出ない。
私は大きく息を吐いた。
「はぁ〜」
そして苦笑する。
「ほんとゼロから作るって大変なのね」
前世では、こんな事考えた事もなかった。
法律や治安、社会。
全部、当たり前に存在していた。
「何気に過ごしていた前世」
それは――
「先人達が創り上げてきた物」
私は机の上の書類を見る。
積み重なった紙の山。
「当たり前の世界」
それがどれだけ凄い事だったのか。
今なら分かる。
「それがここにはまだ無い」
だから全部、自分で決めるしかない。
私は顔をしかめた。
「早く指揮官来ないかしら……」
ぼそっと呟く。
「そうすれば丸投げ出来るだけど」
責任を分担したい。
専門家に任せたい。
私は椅子の背もたれに体を預けた。
「一体、だらだら贅沢三昧生活は何処に!?」
思わず天井に問いかける。
返事はない。当然だ。
私は諦めたように姿勢を戻した。
「……やるか」
嫌々ながら書類に目を通す。
一枚目。
「植物工場は……」
目を走らせる。
「レタスが順調育ってる……か」
私は少し目を細めた。
「へぇ」
あの設備。土なし。栄養水だけ。光。
それでちゃんと育っている。
「作業してる人達もビックリか」
そりゃそうだ。常識外れだ。
私は小さく笑った。
「最新設備?だし」
この世界では、間違いなくそうだ。
「まあこれは成功も近いわね」
食料問題の一部は、これで解決できる。
次の書類。
「それと……レール敷設も……」
地図と照らし合わせる。
「まあまあ順調か」
予定より少し早い。
人手が増えた影響だろう。
鉄道は確実に伸びている。
私は頷いた。
「いい感じね」
そして――少しだけ表情を引き締める。
次の書類。
「それと……秘密兵器は……」
極秘の報告書。
私は目を通す。
「三八式は……二丁は形になったのか」
思ったより早い。
精度はまだだろうが形になったのは大きい。
「それと九九式軽機関銃は一丁分、部品は完成か」
私は小さく頷く。
「悪くない」
次の行で苦笑する。
「その他は……流石にまだまだか」
当然だ。そんなに簡単に出来る物ではない。
「一部部品が完成……と」
進んではいるな確実に。
そして。
「L6も車体の骨組みまでか」
私はペンで軽く机を叩いた。
トントン。
「まあ仕方ない」
時間がかかるのは当然だ。
むしろ早い方だ。
私は書類を閉じた。
机の上に積み直す。
そして、静かに呟く。
「……全部同時進行ね」
治安。食料。鉄道。兵器。
どれも止められないし止めたら終わる。
私はゆっくりと立ち上がった。
「忙しいわね」
少しだけ笑う。
「でも、悪くない」
ゼロから作る。
何もない所から積み上げる。
それは大変だ。
「面白いじゃない」
私は窓の外を見る。
広がっていく村。
いや――もう村ではない。
「……町、ね」
少しずつ確実に形になってきていた。




