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国境から始まる工業革命 ―転生エンジニア領地開発記―  作者:


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初めての火種

「お嬢様、少々よろしいでしょうか」


文官の声は、いつもより少し硬かった。


私は書類から顔を上げる。


「どうしたの?」


嫌な予感はしていた。

人口が増えた。人が集まる。

そして――


問題も来る。


文官は一歩前に出て言った。


「……揉め事が発生しております」


私は小さくため息を吐いた。


「内容は?」


文官は紙を見ながら説明する。


「商人同士のトラブルです。内容は商品の価格と取引順を巡っての口論」


私は頷く。


「まあ、そこまでは想定内ね」


だが文官は続ける。


「……それが殴り合いに発展しました」


私は目を細めた。


「早いわね」


まだ村が整備しきれていない。

ルールも曖昧。

そこに金が動けば――

こうなる。


「怪我人は?」


「軽傷が数名です」


「重傷は?」


「ございません」


私は小さく頷いた。


「ならまだマシね」


文官はさらに続ける。


「それと、盗難も報告されております」


私は椅子に深く座り直した。


「どの程度?」


「小規模ですが、荷物の一部が消えたとの報告が複数」


私は机を指で叩く。

トントン。


「証拠は?」


「現時点では不明です」


つまり――


「捕まってないのね」


「はい」


私は少しだけ考える。

そして文官が最後に言った。


「さらに……」


嫌な予感が的中する。


「酒場での暴力沙汰も発生しております」


私は顔を覆った。


「フルコースね」


商人の揉め事。

盗難。

暴力。


完全に。


「治安悪化の初期段階」


私はゆっくりと顔を上げた。


「発生場所は?」


「主に人の集まる場所です」


市場。

酒場。

宿屋周辺。


「でしょうね」


人が集まれば摩擦が生まれる。

それは避けられない。

私は椅子から立ち上がった。


「……来たわね」


文官が静かに頷く。


「はい」


私は窓の外を見る。

活気のある村。

その裏で小さな火種が生まれている。


「放っておいたら?」


私は問いかけると文官は即答した。


「確実に悪化します」


私は頷く。


「でしょうね」


小さなトラブルは放置すれば、大きくなる。

私は机に手を置いた。


「よし」


決めた。


「対応するわ」


文官が顔を上げる。


「具体的には?」


私は少し考える。

軍を出すほどではないが放置もできない。


「見張りを増やす」


まずは抑止力。


「巡回も」


目を光らせる。


「あと」


私は少しだけ笑った。


「ルール作るわよ」


文官が頷く。


「取引のルール。揉め事の処理、罰則」


今までは必要なかった。

小さな村だったからだが今は違う。


「ここはもう村じゃない」


私は静かに言った。


「人が増えれば秩序が必要になる」


文官は深く頷いた。


「はい」


私は窓の外を見る。

人の流れ。笑い声。


そして――その裏にある混乱。


「……新しい仕事ね」


私は小さく呟いた。


「治安」


今まで無かった問題。

だが――これもまた。成長の証だった。

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