ドミノ倒しで文字を書こう
最近、新作を書き始めたのでなんとなくこちらも追加してみました。
新作『人間もどきの実験体はほどほどに頑張りたい』も良ければ読んでいってください。ポヤポヤした主人公のお話です。
イルカはその日、暇だった。
やることも無く、何もすることのない休日。
前世ならゲームをして潰す一日。ゲームがないから潰しようがない。
「料理をやる気もないし、いたずらをやる気も出ないし、かといって何もしないのもつまらないし」
自室のベッドでゴロゴロしながら考える。
予定だってもちろんない、今日はまだ部屋から動いてすらいない。
「イルカ……」
ノックもなしに扉が開く。
ぽやりとした頭で寝っ転がったまま来客を眺める。
「ウニ…。用事〜? 僕は絶賛暇を売ってるよ。買う?」
「黒いヒヨコ…もどきが、イルカのとこのコボルトと喧嘩をしている。仲裁をしてほしい」
「え、不死鳥くんとコバくんが? なんで?」
珍しい。コバくんはコボルトにしては大人しく、気の長い性格だから滅多に怒ることはない。不死鳥だってそこまで短気はない筈だ。意思の疎通はお互いしっかり出来る種族で、決して相性が悪くはない。
とりあえず、何をしているのかと現場に向かう。
現場は庭だった。
綺麗に整えられた庭で黒い影が頭を上下に振っている、ヘドバンだろうか。いや、威嚇らしい。その周りをくるくると四足歩行の生物がバターになる虎のごとく回っている。
大きさや行動でどちらがどちらかはすぐに判別がつくが、これは喧嘩なのだろうか。
「ねぇ、なんの儀式? アレ」
「喧嘩ではないの? 少なくとも鳥の方は威嚇しているから、怒っているのかと…」
「いや、僕にもわからない……コバくん! 何してるのー?」
ウニは首を傾げている。ただの喧嘩には見えないのは僕だけじゃないようだった。
コバくんはすぐに僕に気がついて、ぴゃっっと飛ぶようにこちらに跳ねてきた。
スタリと目の前に二足歩行で立つ彼はどう見ても普段どうりで、異変はわからない。
困惑する僕に、コバくんもなんですか? と不思議そうな顔をする。怒っているわけではなさそうだ。
「いや、バターにでもなるの? そんなぐるぐるして。あとは、不死鳥くんの方は何しているの?」
鳥くんはまだ首振りダンスをしている。一生懸命だが、意味不明の行動だ。
「ばたあ? なりませんよ? ええぇと…。遊んでいたんです。鳥さんが10回首を振る前に僕が周りを10周するんです。今のところ鳥さんの勝ちですね」
「……遊んでるの、それ」
「はい。楽しいです」
不思議な遊びだ。となりのウニが宇宙猫の顔をしている。
「…あと 、条件的に、体格も考えた上で、君の方が不利だと思うよ。楽しいならいいけれど」
「え? なんでですか?」
むしろなぜわからないのか。
横でウニが懇切丁寧に説明を始めた。
「あのヒヨコもどきが一回首を振るのは簡単に1秒かかるか、かからないかで行うことができるが、君があのでかい生き物の周りを一周するのは1秒で行うのはきついでしょ」
「強化をするので、頑張ればできますよ。鍛錬にもなるんです」
今度は僕も宇宙猫の顔になった。驚きは伝染するらしい。
「ねぇ、ウニ。魔族ってみんな脳筋なの?」
「そんなわけない……。周囲におかしな奴が集まっているだけだ」
僕はあまりのことにその後暇なウニと買い物に出かけた。
少し仲良くなれた気がする。
次の日。
「イルカ様は今日も休みですか?」
朝一番に僕の部屋にやってきたコバくんは開口一番こう聞いてきた。
「そんな万年暇人のように言わないでよ……。うん、明日っから亜人族の国だか何かと会合の準備があるらしいから。忙しくなる前の休みだけど……」
「最近のイルカ様が、あまりにも大人しいのでイタズラ仲間一同、心配しているんです。今日は大型なイタズラをしますよ!」
おおう、心配されてしまうとは、(一応)上司として恥ずかしいな。よし、やろう。
瞬時に決めて、ノコノコとコバくんについていくことにした。
さて、今回のイタズラはこちら。
「ぴたごらすいっちなドミノ倒し」
一見ありふれているように聞こえないかもしれないが、ドミノの大きさを考えるとだいぶ危険で面白い。
まずは巨大なドミノ作りから始め、最後に誰にもバレないようにみんなで設置する。
単純ではあるが、ドミノが長さ2メートル弱、横幅1メートルと巨大であり、持ち運びに時間がかかり、目立つので、バレないように、というのがなかなか大変だ。
厚さは怪我人が出ないように薄めで、材料は木材。かかるのは腐っても魔族なので、材質については心配いらないだろう。
昼間にコソコソ森でドミノをたくさん作る。
着色は時間がないので行わない。
イタズラ仲間はいっぱいいるので、ドミノ作りは日中に終わった。
設置は夜中に行う。
決行は明日。仕事はあるが、そこは問題ない。
仕事中にそういうことをするのはよくあることである。
城の周りを囲むように設置して、城壁を仕掛けで越える。外側のドミノが倒れ、縄を引っ張り、城壁の上に置いた重しを中側に落として中のドミノを作動させる仕掛けだ。
そこを通り抜ければ、中へ続く倒れたドミノが庭で文字を書き、二階の廊下から文字が読み取れる仕組みだ。
さて、誰が一番に気がつくのだろうか。
仲間たちと徹夜で設置した僕は、朝方にしぱしぱする目を無理やり開けて会議室に向かった。
向かう途中見えた、倒れたドミノに少し微笑みがこぼれた。
目の隈は化粧で誤魔化せただろうか。コバくんたちの遊びを見た日は、結局夜中から長編小説を読んでいたので徹夜していたのだ。
まだ二徹だから、大丈夫なはず。
「何していた、イルカ。吐け」
会議室について早々、シャチに胸ぐら掴まれたので、バレたことを悟った。
「コバくん、今日は地獄だった。シャチが雑用全部押し付けてきたんだ。しかも、結局、誰が一番に気がついたのかわからずじまいで…。頑張り損だったかな」
「イルカ様、みんなと作業したの、楽しくなかったですか?」
「めちゃくちゃ楽しかった。特に設置中。間違えて倒した時に巻き込まれるのも面白かった。うん、損はしてない」
「尻尾挟まれたり、門番や巡回兵にバレそうになったり、スイッチの仕掛けが足りなくなって代用品考えたり、いろいろしましたね。…イルカ様が楽しめたのなら何よりです」
ドミノ倒しの結果
ドミノ文字『お仕事お疲れ様、先着一名、冷蔵庫に贈呈品』
最初に(文字を)見つけたのは魔王様でした。
贈呈品は、冷たい梅のソーダ。
イルカが梅は身体にいいサプリメントだと思っていると、後に魔王はコバンザメから聞いた。
訂正はしたが、イルカは今度、牛乳にはまっているようだった。確かに身体にはいいので、魔王は放置を決め込んだ。




