ジュゴンが行く、突撃魔王城訪問
「イーールゥーカーくーーん、あーーそーーびましょぉーーー!!!!」
ある昼下がりの平和な城で、なんの前触れもなくそんな大声が響き渡った。
聞いたや否や、魔王と愉快な仲間たち、つまり魔王と幹部連中は、真先に名前を呼ばれている張本人を確認した。
ちょうど、会議中だったのである。
昼ごはんをたべたばかりだったからか眠た気なイルカは、その大声で飛び起きていた。
「……えっ……なにごと……」
というかいつの時代のセリフ…? と呟くイルカを見てこいつが犯人という線は消えた。今回のビックリ作戦とかそういうのではないらしい。
となると、これは誰の声なのか。
まさかイルカが人間ということを利用して人間がスパイを…いや、スパイならもっと忍ぶよな。と様々な憶測無言の会議室に飛び交う。
「おい、イルカ。知り合いか?」
とりあえず真相を聞き出そうとクジラがイルカに問いかけてきた。
「あ、ええ、誰だろーな。今の咆哮じみた声じゃ誰が誰だ……か……」
少々考えるように首を傾げたイルカだったが、すぐに咆哮という言葉に反応した。
咆哮、竜の咆哮、竜の知り合い……あ。
「あぁ、ジュゴンくんだ。魔王城に住んでるって言っといたから、会いに来たのかな」
一人で勝手に解決しているイルカに、待て、そいつ誰だよとシャチが横槍をいれる。彼はもうすっかりツッコミ役だった。
まさか、人間か? イルカが取りいられたか? そんな警戒もどこ吹く風で、イルカは答える。
「ジュゴンくん。ええっとね。友達! 仲良いの! よくいたずら案くれる! あとは……あ、竜人族だからめっちゃ頑丈。僕一回怒らせたら、頭に一発くらったんだけど、割れるかと思った!」
楽しそうに笑顔でいうイルカは玄関、というか門の前まで走り去った。それをクジラとシャチ、ついでにコバンザメが追いかける。コバンザメ、コバ君ね、コボルトの。フルネームだともうなんの生物かわからないよね。
予測は外れて一同はほっとしたが、魔王は流石一国の長を務める男だった。聞き逃しはしなかった。
このイルカの悪戯案を考えた、だと?
どこのどいつだイルカが認めるくらい凶悪なイタズラ考えて実行しようと思える馬鹿は。
魔王は寒気を誤魔化すかのように両手をすり合わせつつ、部下に茶菓子を用意させることにした。
「やあやあジュゴンくーん、いらっしぁぁああい!!」
無駄にクレッシェンドを聞かせた声で僕が叫ぶと、後ろで何かうるさいだとか抗議を受けた。
「元気そうだね、イルカ」
にこりと笑ったツノの生えた黒髪黒目の青年。
そういえば鱗も黒いみたいだね、ジュゴンくん。
「あ。イルカの保護者……さん? ……さま? ですか? こんな真昼間から煩くてすみません。」
軽く謝罪を入れるジュゴンを見て三人は、あれ、この人常識人かもと、感じた。
「イルカにいつもお世話……してます? あ、いやされてます? 竜人族のジュゴンです。本名は聞かないで下さい」
「ジュゴンくんは本名で呼ぶと烈火の如く怒って攻撃してくるから知らない方がいいと思うよ」
いや、なんか変人だった。名前読んだだけで返事が攻撃になるっていう変人だった。クジラはもうイルカの交友関係がおかしいことにツッコミを入れる気もなかった。
「イルカさま、このひとだれですか?」
コバ君の声に僕は首を傾げる。
そういえば会わせたことがなかったかもしれない。
「僕の友達」
他に返答の仕様がない。
前世の同郷とかいえないし、かといってこの世界の同郷ということにすると種族が違うし。
「え、俺。アンタの友達だったの?」
僕もちょっと違う気がするけど突っ込んじゃダメだと思う。
「それ以外にどんな表現方法があるの?」
聞き返した僕に彼は少し固まって、怪訝そうな顔をする。
しばらく眉を潜めて首を傾げた。
そのまま数分フリーズしていたが、すぐに復活した。
「ん〜、俺から見れば……」
これこそ真相だと言わんばかりの輝いた目で堂々と言い放った。
「目的が一致したら何もかも気にせずにやりたいことだけやりたい同盟。」
「長い、マイペース同盟でいいじゃないか。」
その二人の会話を見てコバは思った。
自覚あったんだな、と。
「あ、それでなんのようかな?」
思い出したように聞いた僕にジュゴン君は、にこりと笑った。
「この前イタズラ用になんかいいのない?って聞いてただろう。近くに寄ったからついでにと思って。」
爽やかな笑みで僕に、コンビニにお使いしてきた子供みたいに無邪気に渡してきた。
堅そうな木箱だ。
なんだろうこれと思って軽く考えて蓋を開けたら、杭やら剣やらおかしな魔術書が入っていた。
どこからどうみても禍々しい。
「ほら、前言ってただろ。勇者用の罠。強制ループ先が、地獄。俺の思う地獄にありそうな物セットだ」
流石の僕も顔が引きつってしまう。
「わぁグロそう。でもいいね」
その返答に、シャチがマジかって顔をしてきた。
いいじゃないか、別に。だって喰らうのは敵だもの。
うんうんとうなずいていれば、クジラはため息をつきながらもわしわしと僕の頭を撫でる。
「お前に友達がいたのか、そっか」
なんか親の目をしていた。あと、僕と彼は友達ではない。
「そういえばイルカ、そのバンダナ似合ってる」
「あ、ほんとー? クジラがくれたの」
ニコニコと笑う僕にジュゴンはあははと笑いながら、これもお土産〜とお菓子をくれた。なかなかの量だったのでみんなで食べようと思う。
「そういえば俺、君の保護者さんの名前知らないんだけど。クジラさんはこのイケメン?」
クジラを遠慮なく指をさすジュゴンに頷きながらシャチとコバ君も紹介しておく。
「いや、俺その名前じゃ……もう、いっか」
抵抗しようとしたシャチは秒で諦めた。
順応性が高いな。




