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ジュゴンとイルカは仲がいい

 ジュゴンにあらかた城内の知り合いを紹介したあと、結局彼は泊まっていくことになった。


 イルカの友人なだけあり、とんでもなく度胸があるようで、初対面の魔王の幹部に遠慮のかけらもなくあだ名の方で呼んでいる。


 だが、ジュゴンという名も本名ではないのでお互いさまだ。




「夕飯まで時間あるけど何する?」



 気分は子供の頃のお泊まり会だ。



「罠案の続き考えようぜ」



 それはいいねと、食堂でのんびりしながら喋る。



 なんだかんだ言って、みんなも気になるらしく時々覗きに来る。


 今はタツノオトシゴとカルガモがこちらを見ている。




「昔の童話みたいに、レストラン入って、変なルールだと思いつつ、靴脱いだり、服脱いだり、最終的には塩だのクリームだのを騙されて自ずから付けさせ、気がついたら料理、アレを実行するってのは?」




「途中で気づかれたら終わりじゃないか。いっそのこと、こっちから狩りに行こう」




「狩りに行くんだったら罠の意味がないじゃないか」



 アレ、リュウジンゾクってなんだっけ。確か一般的には山奥に住む竜と人の特徴を併せ持つ亜人で()()()()()()って聞いた気がする。

 まぁ、雑食だから人間を食べることもできるらしいが。


 常識的なその知識がジュゴンには一切通用しないみたいだ。



「お前も人間嫌いなのか?」



 不意に聞かれたこの言葉、僕はサッと声の主を見る。


 タツノオトシゴが不思議そうにジュゴンを見ていた。


 イルカみたいに、と暗にいわれたジュゴンはなんの躊躇いもなく当たり前のように頷いた。



「俺、あいつら嫌いなんで。……あ、イルカは別、だってお前、人間モドキじゃん」



「モドキって……君ねぇ」


 呆れたように僕がいうと、ジュゴンはカラカラと明るく笑った。



 その笑い声は子供のように無邪気だった。




 夕食、今日の夕食はお客がいるからかなかなかに豪華だった。



 毒々しい色の蛇煮込みとか、ネズミの素揚げ山盛りとか、痺れ苦しみ悶え死んだ顔をした人面魚の塩焼きが()()のわかる状態でテーブルの中央を陣取っていて、僕自身は全く食べる気のしない料理の数々だったが。



 ジュゴンは普通に口に運んでいた。竜人族に転生してからああいうものも食べ慣れてしまったらしい。僕としてはそんなとこまでなれなくても良いと思うんだけど。



 ちなみに、きょうの人間料理は小腸と歩く野菜のごった煮だった。言われなければ気がつかないレベルで普通に美味しそうな見た目だった。


 僕なんて間違えて食べるとこだったよ。


 味で材料に気がついたジュゴンに止められなければカニバリズムに目覚めるところだった。ジュゴンはもと人間のくせに夢の中ならカニバリズムでも問題ないらしい。


 ボクは衝撃を受けた。



 嘘だろ、夢の中ならアンタ人間食べる気になるの。


 流石に引いていると、お前も人のこと言えないだろう、同族が食料にされる瞬間を見たいとかのたまっているあたり、とクラゲに言われた。確かにその通りである。



 そして結局、人間が食料にされる瞬間を僕は見損ねていた。

 下準備の最中はジュゴンと遊んでいたから気がつかなかった。次の下料理の時には呼んでねと料理長には伝えたが、多分また忘れられるのだろうと思う。



 寝る時、ジュゴンはお客用のお部屋に泊まった。

 寝心地が良くて危うく二度寝の危機だったと後々報告された。僕は敷布団敷いてみんなで雑魚寝がしたかった。そう主張したら、お前は寝ている同僚の顔に落書きをするような人間だろうと聞かれたので頷いたところ、だからだよ、と軽く殴られた。タチウオ、君力強いんだから手加減して欲しかった。いや正確には手加減してるのだろうけどもう少し気を使って欲しかった。あと何気に腹パンは痛い。



 朝ご飯はみんな別々なのでジュゴンと一緒に目玉焼きを乗せたパンを食べた。美味であった。僕は少食なので、それ一枚で十分である。ジュゴンはよく食べるから、いかにも毒といった紫と緑の混じった色をしたチャーハン…?を三杯は食べていた。すごい。本人曰く、味は中華風なティラミス味だと言われた。とりあえず僕は食べたくない。



 もうジュゴンが帰る時間だ。


 お別れというのはいつ来てもなんだか怖いものである。

 つまらないというよりも、寂しいという気持ちが湧いて出るのはなぜだろう。僕はクジラがいれば他に何もいらないと思っていたのに。



 楽しい時間が過ぎるのは、本当に早いものだ。




「じゃーねージュゴン。またそっち行くよ」


 僕が笑うと彼も笑う。まるで小学校低学年のお泊まり会後の駆け引きのようだがお互いもうとっくにそんな年齢は過ぎている。いや、今世の僕の見た目ならセーフ。彼もなかなかに若々しい見た目なので、第三者目線なら近所のお兄さんに遊んでもらう子供に見えることだろう。



 うん、問題ないな。




「そっか、俺は今度、保護者さんたちの分も何か面白いもの探してきてあげるよ」




 完全の善意の目でジュゴンが見つめてきたが、クジラは謹んで遠慮しておいた。




「俺は生憎と悪戯の趣味はないんだ」



「そうですか……」



 少し残念そうなジュゴンだが、これに屈してオーケーサインを出してしまうと、地獄を見るだろうとクジラの直感が叫んでいるので、我慢した。





 実際、ジュゴンはゲテモノの入浴剤とか生の人肉とかをお土産として考えていた。





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