15温泉回
温泉旅行といえば何だろうか。
僕は温泉卵が思いつく。
黄身が苦手で、クジラに押し付けているけどね。
ここは温泉地、通称地獄の湯。
なんか前世の世界にも似たような名前の温泉地があった気がする。
そして僕自身はこの温泉に入りたくない。
どこのどいつが地獄のマグマ風呂なんて入るのだろう。
あ、魔族か。
それにしても人間の社員に優しくない社内旅行だと思う。僕じゃあ入る前に熱気で死ぬ。
みんなが温泉でゆっくりしている間に美味しいものでも食べていようと、そこらへんでぶらぶらすることにした。
温泉街には、人間の街のように温泉まんじゅうや温泉卵も売っていたし、焼き魚やお菓子の類もあった。
手始めに温泉まんじゅうをもぐもぐしながら、歩く。
うん、美味しい。
歩いている客は人型から人外さまざまな魔物や魔族がいた。
可愛い子鴨が歩いていたり、池の中には魚がいたりみているだけでのんびりとできる場所もあった。
前世の世界だったら写真を撮っていただろう。
この世界の写真は、撮るのに必要な道具の値段が高いので、こんな些細な光景の写真を撮るのには使わないだろう。
あって、絵描きが描いた写実的な絵が限界だ。
今度可愛い子鴨でも描いてみようかな。
あ、僕はデッサンが不得意だった。
うん、まぁ、チャレンジしてみるだけしてみればいいと思う。
誰に見せるわけでもないのだし。
しばらく歩いてから、もとの場所に戻ろうと思ったら。
ココドコ?
いま僕はどこにいるの?
携帯、携帯とか思ったけど、この世界にそんな便利なものはない。
やっべ、僕はこんな歳にもなって迷子か。
僕の見た目だけなら、子供と言える見た目だけど。
とりあえず、周りのものを見る。
菓子屋菓子屋饅頭屋着物屋焼き魚の露店骨董屋温泉
だめだ。似たり寄ったりな出店しかない。
エクスキューズミー。
ダレカタスケテー。
テクテク歩いても、買い食いの残骸が増えていくだけだ。
うーん、和菓子みたいなものはこの世界にもあるんだな、不思議だ。
まぁ、所詮生きてる生物の種類と魔素の有無しか違いのない世界だ。
神とか名乗ってる奴はいるらしいが、さてさて本物かどうかもわからないし、気にしても意味はない。
今日二度目の焼き魚を食べながら、ちょっと暗くなった夕焼けの道を行く。
あぁ、本当に帰れるかな?
寂しく一人で歩く道。
ツノ飾りのついたカチューシャで偽造魔族になっているが、魔素の量的にこいつ弱えなと思われているらしく、周りからは冷たい目線。
いや、うん、僕、弱い自覚あるけど。
そんなに厳しい目で見られるとどうにも、なんか、素手で人の頭でも割って、僕強いんだって証明したくなる。
少し身体でも鍛えようかな。
結局、モヤモヤしていたら、元の場所に戻ってきた。
もう暗くなっていた。そろそろ魔族の活動時間だ。
モヤモヤは心の奥の方に押し込んでおいた。そして、とりあえず帰ってこれた喜びを噛み締めながら、部屋で温泉卵(白身のみ)を貪り食べていた。
僕が帰宅?して二十分ほどで、クジラが乱雑に僕の部屋の戸を開けた。
何事かと思いつつ、綺麗に取り除かれた丸い黄身が山積みのお皿に新たにまた追加する。
綺麗なピラミッドが出来上がった。
クジラのことだから何かツッコミでも入れてくるかと思ったら、ダンマリだった。
おかしいなと思い、顔をのぞいたら、泣いていた。
え? 何?
僕は焦って、いっぱい話しかけた。
どうしたの? とか、とりあえずこれ食べる? とか。
しばらくしてから、やっとクジラが喋った。
曰く、どこ行っていた、と。
心配した。と親の顔をで泣かれれば、今度こそどうしたらいいかわからなくなった。
子供の扱いも知らないけど、大人の扱いもよくわからないよ。
まぁまぁ、僕は別に幼児でもないし、大丈夫だよ、と慰めようとしたら、頭引っ叩かれた。
なかなか痛かった。
「で? 結局お前はこんな時間までどこにいた?」
「あー。迷子になりながら周辺を散歩。買い食いして歩いてた。あ、これお土産」
クジラは呆れ顔だった。
僕は知らない。
クジラが心の中でこう思っていたことを。
(あいつもまだ、子供だったな)




