その15「私は自分が不器用で上手くできないから、奥さんにもそういうのは求めないよ」
家事や育児を女性の仕事だとか思ってないし。
「…本当ですか?」
何だよ。疑ってるのか?。お前もよく知ってる通り私は一人暮らしが長かったから、自分の事は大体自分でできるよ。家事だって得意じゃないけど一通りできる。得意じゃないけど。
「強調しますね」
分かる?。確かに得意じゃないし、特に料理は本当に簡単なものしかできないから奥さんと比べると圧倒的に劣ってるからね。結果的に大半を奥さんがする形にはなってた。だけど、その反面、前にも言った通りに子供の世話は私の方が向いてたみたいで、おむつとかミルクとか寝かせたりあやしたりは私の役目になってたよ。それで私達は上手くいってた。
「それならいいですけど…」
もちろん完璧だったとは言わないよ。奥さんにだってそれなりに不満はあったと思う。だけど、奥さんだって私が思ってる通りに完璧にできてたわけじゃないから、その辺りはお互い様ってことなんじゃないかな。大体、光代´は家のことはすべてお前がやるってことで躾けられてきたんだろう?。
「そうですね。それが当たり前だと思っていました」
でも清真は自分の事は自分でするし、家にいる時は箸の上げ下げもしないって奴じゃなかったじゃないか。そういう様子を、お前たちの先祖が見たらどう言うかな?
「叱られると、思います」
だろ?。それに比べたら私なんてよっぽど今の時代に合わせられてると思うけどな。
昔はさ、家に家族が多かったりして夫が家のことしなくても、妻以外にも誰かそれをする人がいた訳だろ?。妻と姑がいたら、主婦が二人もいることになる。姑って言ったら妻にあれこれ命じてこき使ってるみたいなイメージがあるかも知れないけど、だからって遊んでたわけじゃないんじゃないかな?。ご近所付き合いとか年中行事の管理監督とか、そういうことをやってた気がするんだけど?。
「私にはそういう方がいらっしゃらなかったので実感としてはありませんけど、言われてみればそうかもしれません」
今は親世帯との同居も少なくなって、本当に核家族っていう世帯が増えたみたいだから、ご近所付き合いとか年中行事の管理監督とかも妻が一人でやらなくちゃいけなくなってるんじゃないかな。そりゃご近所付き合いも年中行事も昔に比べたら減ってるかもしれないけど、完全になくなったわけじゃないだろ?。
「他の家のことはよく知らないので…」
ああそっか。まいいや。とにかくそういう感じだからさ。生活家電や家事家電が進歩して家事が楽になったとは言われてても、家にいる人間の数が減ってる分だけ負担は必ずしも減ってないと思うんだ。だから、家にいる大人が手分けして行うっていうのはむしろ当然の成り行きだと私は思うんだよ。
「なるほど…そういう考え方もできますね」
昔のやり方が通用するのは、環境や状況がその当時のままであることが大前提だと思う。環境も状況も全然昔と違うのに、やり方だけは昔のままなんて、上手くいく方がおかしいと思うんだ。
「それでも、私は今以上あの人にやっていただくことには抵抗も感じます」
お前がそう思って自分から進んでやるんならそれでいいと思うよ。苦痛じゃないんだろ?。
「はい」
だったらそういうのもあっていいと私は思うよ。何でもかんでも完璧に手分けしてやれって強要するのも違う気がするから。やっぱり人間だからお互いに向き不向きもあると思うし、それぞれ状況や事情もあると思う。その辺りはそれぞれの家庭に合ったやり方でいいと思うんだ。けれど、その一方でどちらかだけに負担が大きくかかって、しかもそれを苦痛だと感じているなら、それも好ましくないと思う。やっぱりそういう不公平感が、人間関係をこじらせる大きな原因になると思うし。不公平感が無いんなら、まあ他人がとやかく言うことじゃないかもしれないけどさ。
これも、友人達との議論の中で共通認識になったことなんだけどさ。私達はお互いに意見を出し合うことはしても、相手の存在自体を否定するようなことはしないって決めたんだ。意見についても、相手の意見に対して思ったことや感じたことを言っても、相手の意見そのものを変えることを強要しないってことも決めたんだよ。結局、そうすることが一番諍いが少なく済むって私達は思ったんだ。
だから、こうしたらいいんじゃないかっていう提案はさせてもらうし、それについて詳しい補足説明もしつこいくらいする。だけどそれは相手の考えや価値観を変えることを目的にはしないんだ。ただしあくまで、その相手の考え方や価値観が法律とかに反しない範囲でだけどね。
何にしても、とにかく私は大人として自分のやれることを分担しようと思った。それだけなんだよね。




