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その11「才能、才覚、あるいは人材」

まあ元々はそんな意味らしい。タレントって。


「別に今はどうでもいい話だと思いますが…」


だよね。で、アジトには着いたが、う~ん、どうやらいないようだな。人の気配がしない。


それは、郊外のこの辺では標準的と思われる小ぶりの一軒家だった。何の変哲もなく、特徴もなく、目印もなく、目立たない。それなりに手入れも行き届いていて、不穏な気配もない。まさかこんな普通の家に、引退したとはいえ元暗殺者が暮らしているとはすぐには結び付かないだろう。だからこそ絶好のセーフハウスなんだと思う。


「それで、どうしますか?」


さて、どうしようかと思ってるところに、若干アジア系の血が混じっていそうな顔立ちの痩躯で長身の男と、10代後半と思しき栗色の髪の少女の二人連れが歩いてくるのが見えた。おっと、出掛けてただけだったか。


「では、あの二人が…?」


うん、そういうこと。


男の方が私を見る。はっきりと目が合ったはずだが、何も反応しない。少女の方も、ぼんやりと前を見ているだけだ。私達の姿は彼らにしか見えないということは前もって伝えてあったから、下手に挨拶などをしてそれを誰かに目撃され、不審に思われたりしないように気を付けてるんだろう。彼らはそれほどのプロだ。


彼は私達の横を通り過ぎる際に少しだけ目配せをして、家へと導いてくれた。それに従って家に入ると、そこは中も質素だが手入れが行き届いた清潔な部屋だった。とにかく周囲に不審がられないように、あらゆる目を引くような特徴を出さないようにしつつ、それなりの生活感も出すことを心掛けてるんだろうなという印象だった。


「お久しぶりです。マスター」


彼は私に向かって会釈などをせず、あまり口も動かさないようにそう挨拶してきた。再び彼は目配せをしてきて、私達をソファーへと座らせる。そしてそのすぐ横に少女を座らせ、自分は少女と向き合う形でソファーに座った。万が一外から覗かれても、少女に話しかけてるように見せるためだと分かった。


元気そうだね。彼女は光代´。オブザーバーだ。


「初めまして、ミツヨダッシュ。私は元マネージャーで、今はジョンと名乗っています。彼女はセレン。もちろん偽名ですが、今はすべてそれで通っています」


セレンと紹介された少女は、特に反応することもなくぼんやりと彼を見詰めたままだった。


「光代´です…」


簡単な挨拶を済ませた私達は、それでもさすがに今までのように寛いだ雰囲気にはなれなかった。やっぱり独特の緊張感があるからだろう。あまり無駄話が出来る感じでもなかったから、私は即本題に入ることにしたのだった。


早速だけど、どう、彼女の様子は?


「ごらんのとおり、相変わらずです。こちらの言ってることは理解しているんですが、感情は希薄で反応も乏しい。完全に心を閉ざしたままです」


無理もないか。すまないな。我ながら残酷なことをしたと思う。


「いえ、それが私達の宿命ですから。むしろ今この平穏な暮らしをさせていただいてることを感謝しています」


ありがとう。そう言ってもらえると気が楽になるよ。ところで、組織の方はどうなのかな?。


「私が依頼を受けていた組織は、大規模な摘発により壊滅しました。私は末端と繋がりがある外注業者でしかありませんので、取引記録さえ抹消すれば基本的に足がつくこともありません」


なるほど。結局あの暗殺はあまり意味が無かったということだね。


「そうですね。司法長官はあくまで組織の顔でしかなかった。彼が率いるブレーンと彼が作り上げた司法組織は、しっかりと彼の遺志を継いで組織の摘発に当たりましたから」


で、この町は平和になったのかな?


「いえ、それもいくらかはマシになったという程度でしょう。組織は解体されても、それを構成していた人間の多くは網を逃れてまた別の組織に入ったり新しく組織を立ち上げたりしただけですから。ただ、従来ほどの力はありません。しかも、徐々にその力も削られつつあるようです。ひょっとすれば数十年後にはすっかり平和な街になってるかもしれません」


そうか。そうなるといいな。


「私もそう思います。おかしな話ですが、あの稼業から足を洗うきっかけを貰えたことを感謝してるんですよ」


そうなんだ。まあ、君も好きでやってたわけじゃないからね。


「はい…」


それで、これからはどうするつもりなのかな?。


「私は今、SEとしてネット関連の会社に勤めてます。セレンは難民の孤児という形で私の養子になっています。私はもう、今の生活を続けることしか考えていません。それがセレンに対する償いでもあると思っています」


そうだな。それがいい。


私が頷いたその時、それまで黙っていた光代´が口を開いた。


「今、幸せですか…?」


その問い掛けにジョンは少し思案した様子を見せた後、おもむろに言ったのだった。


「私達は何人もの人間の命を奪ってきました。その私達に幸せになる資格はないと思ってます。ただ、セレンとのこの静かな暮らしは、私にとって安らぎではあります」


彼がそう言った時、セレンが不意に光代´の方を向き、小さく何かを呟くように唇を動かすのが見えた。声は発してなかったようだが、それは決してネガティブな意味ではないと感じられた。何しろその時のセレンの顔は、それまでの感情を一切感じさせないものではなく、確かな柔らかさを含んだものだったからだ。


彼らの家を出た時に窓の中を少しのぞき込むと、そこにはセレンの前に跪き、彼女を抱き締めるジョンの姿があったのだった。


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