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神々に捨てられた少女は、世界でただ一人の創世女神になる 「神々が彼女を拒絶した日、世界の新しい歴史が始まった。」  作者: 雨宮ぐみ


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第89話 第三の創造主が隠した処刑後の記録

第89話 第三の創造主が隠した処刑後の記録


《照合候補:アステリア》


白い花に浮かぶ文字を、リリアは何度も見つめ直した。


アステリア。


第三の創造主であり、エリシアの友人だった存在。


消失した子の魂を水晶に保存し、リリアが自分自身の意思で生きられるよう、魂の独立性を守る仕組みを残した人物。


しかし同時に、真実を隠し、他者の選択を制限してしまった過去を持つ。


そんな彼女が、前世のリリアの処刑後に何らかの記録を改変した可能性がある。


「……アステリアは、私の前世を知っていたの?」


リリアの問いに、セフィルは慎重に答えた。


「現時点では、そこまではわかりません。記録の改変者がアステリア本人なのか、それとも彼女の権限を利用した何者かなのかも、まだ不明です」


「でも、照合候補に名前が出ているんだろう?」


レオンが腕を組んだ。


「少なくとも、彼女の存在情報か権限が関わっている可能性は高い」


ミラは不安そうにリリアを見た。


「アステリアが何かを隠していたとしても、最初から悪意があったとは限らないよね?」


「うん」


リリアはうなずいた。


「でも、守るためだったとしても、何を隠したのかは確かめたい」


その言葉を口にした瞬間、白い花が淡く輝いた。


《次の記憶への接続条件――記録改変者の意思を確認》


《接続対象:アステリア》


《本人の意思による応答が必要》


リリアは目を閉じた。


「アステリア。もし聞こえているなら、私と話してほしい」


しばらく、何も起きなかった。


やがて、空間の一角に金色の亀裂が走った。


その向こうから、聞き覚えのある声が届く。


『……リリア』


アステリアだった。


*


金色の亀裂が開き、黒髪と黄金の瞳を持つ女性が姿を現した。


アステリアは、リリアの胸元にある白い花を見ると、すぐに表情を曇らせた。


「そこまで記憶が戻ったのね」


「うん。処刑の日の記憶まで見えたよ」


「……そう」


アステリアは目を伏せた。


驚きよりも、覚悟していたことが現実になったような表情だった。


リリアは一歩前に出た。


「アステリア。あなたは、私の処刑後の記録を改変したの?」


アステリアは、すぐには答えなかった。


黄金の瞳が、リリアの顔を見つめる。


そして、静かに口を開いた。


「私の権限を通じて、記録が改変されたことは事実よ」


その言葉に、ミラが息をのんだ。


カイルは指輪を握りしめ、アレンはリリアの隣で静かに彼女を見守っている。


リリアは、アステリアから目をそらさなかった。


「あなた自身が改変したの?」


「……その問いには、まだ正確に答えられない」


「どうして?」


「私が記録を確認したときには、すでに一部が書き換えられていたからよ。私の権限が使われたことはわかった。でも、それが私の意思によるものだったのか、私の権限を持つ何者かが利用したのか……その記憶自体が欠落している」


セフィルが顔を上げた。


「あなた自身の記憶も、改変されている可能性があるということですか」


「ええ」


アステリアはうなずいた。


「ただし、それを理由に責任を否定するつもりはないわ。私の権限で何かが行われた以上、私には確かめる責任がある」


リリアは胸の奥の緊張を少しだけ緩めた。


少なくとも、アステリアは事実を否定しなかった。


だが、最も重要な問いは、まだ残っている。


「何のために、記録を改変したの?」


アステリアの表情が変わった。


「……処刑されたあなたの存在を、世界の記録から完全に消さないため」


その場に、沈黙が落ちた。


「消さないため……?」


「ええ。処刑の記録は残っている。けれど、あなたの魂が完全に消失したかどうかを示す記録だけが、曖昧にされていた」


アステリアはリリアの胸元を見つめた。


「その曖昧さがあったからこそ、あなたの魂が別の形で世界に接続される可能性が残った。もし処刑によって完全に消失したと記録されていたら、あなたの意思を確認する機会すら失われていたかもしれない」


リリアは言葉を失った。


前世の自分は、処刑された。


しかし、魂の完全消失は確認されていない。


そのわずかな隙間が、今の自分につながっている可能性がある。


「それなら……あなたは、私を救おうとしてくれたの?」


「その可能性はあるわ」


アステリアは、苦しそうに答えた。


「でも、それが私の意思だったと断言することはできない。私は、記録を残したかったのかもしれない。あるいは、あなたの存在を隠すことで、別の何かを守ろうとしたのかもしれない」


「別の何かって?」


アステリアは答えなかった。


その沈黙が、リリアの胸に小さな不安を残した。


*


「アステリア」


リリアは静かに呼びかけた。


「あなたは、私の前世を知っていたの?」


アステリアは目を閉じた。


「……知っていた可能性はある」


「可能性?」


「私の記憶には、あなたに関する記録がいくつか残っている。でも、それらが前世のあなたを指しているのか、創世の力に接続した魂の記録を指しているのか、区別できない部分があるの」


「じゃあ、私が世界の外にいた魂とつながっていることも?」


「ええ。それは、あなたが生まれる前から存在していた記録よ」


リリアの胸元で、紋章が淡く光った。


前世の記憶。


世界が生まれる前の魂。


エリシアの創世の力。


そして、今の自分。


それらは確かにつながっている。


しかし、つながっていることと、同じ存在であることは違う。


リリアは、その違いを守りたかった。


「私は、エリシアそのものではない。前世の私とも、今の私とも、全部が同じとは限らない」


「わかっているわ」


アステリアはうなずいた。


「だからこそ、あなたの魂の独立性を守る記録を残した。あなたが過去の誰かの役割を引き継ぐためだけに存在するのではなく、あなた自身として未来を選べるように」


「それなら、どうして処刑後の記録まで曖昧にしたの?」


「……あなたの魂が、どこへ向かうのかを誰にも確定させないためだったのかもしれない」


アステリアは、ゆっくりと目を開いた。


「でも、それが正しかったとは言えない。記録を曖昧にしたことで、あなたが真実にたどり着くまでの道も、長くなってしまったのだから」


リリアは考え込んだ。


守るために隠す。


傷つけないために、知らせない。


その行為が、結果として相手の選択肢を狭めてしまうことがある。


アステリアは、それを誰よりも知っているはずだった。


「アステリア。私は、あなたを責めるために聞いているわけじゃない」


「……ええ」


「でも、私の未来を守ろうとしてくれたのなら、次は私にも選ばせてほしい。何を知るのかも、何を背負うのかも、私自身で決めたいの」


アステリアは、深く頭を下げた。


「わかったわ。今度は、あなたの知らないところで答えを決めない」


その言葉に、白い花が小さく震えた。


しかし、次の瞬間。


花弁の中央に、黒い文字が浮かび上がった。


《記録改変者の意思――照合開始》


《アステリアの意思との一致率:判定不能》


《改変記録に、第三者の意思を検出》


アステリアが顔を上げた。


「……やはり、私だけではなかったのね」


「第三者?」


レオンが問い返す。


「ええ。私の権限を通じて記録を改変した存在が、私以外にもいた可能性がある」


白い花が激しく明滅した。


新たな文字が浮かび上がる。


《第三者の意思――現在の世界に接続》


《照合候補:未確定》


《ただし、記録改変者は処刑当日に、被告人と直接接触している》


リリアの心臓が跳ねた。


処刑当日に、直接接触していた。


審問場にいた青年。


処刑前夜に訪れた人物。


あるいは、別の誰か。


「……その人は、私を助けようとしていたの?」


リリアが尋ねると、花は一瞬だけ光った。


そして、答えを示す代わりに、別の記録を表示した。


《処刑後の記録改変――第一段階》


《目的:対象の存在を保護》


《処刑後の記録改変――第二段階》


《目的:対象の存在を秘匿》


《実行者の意思:二つの目的が一致していない》


「存在を保護することと、秘匿すること……」


ミラがつぶやいた。


「同じことじゃないの?」


「違うわ」


アステリアが答えた。


「保護は、存在を守るために行うこと。秘匿は、存在を誰にも見つけられないようにすること。目的が異なれば、その結果も変わる」


リリアは、ゆっくりと理解した。


誰かは、自分の存在を守ろうとした。


そして、別の誰かは、自分の存在を隠そうとした。


その二つの意思が、処刑後の記録に重なっている。


だから、魂の完全消失が確認できないのかもしれない。


しかし、なぜ二人は違うことを望んだのだろう。


守ることと、隠すこと。


その違いが、今の自分にどんな影響を与えているのだろう。


白い花が、最後の文字を浮かび上がらせた。


《次の記憶――処刑後、最初に記録を改変した者》


《開示条件:二つの意思のうち、一方を本人の意思によって特定すること》


そして、その下に、見覚えのある記号が現れた。


銀色の指輪。


カイルが身につけているものと、同じ形だった。


カイルは、ゆっくりと自分の手を見つめた。


「……また、俺なのか」


「まだ決まったわけじゃない」


リリアはすぐに答えた。


「指輪が同じだからといって、あなたが記録を改変したとは限らない」


そう言いながらも、胸の奥には不安が広がっていた。


カイルは、処刑場にいた。


証言者でもあった。


そして、彼自身の記憶には封印がある。


何かを知っている可能性は、確かにある。


それでも、リリアは結論を急がなかった。


「カイル。あなたが思い出したことがあれば、教えてほしい。思い出せないなら、それも正直に言って」


カイルは唇をかみ、やがてうなずいた。


「……ああ。もう、隠したままにはしない」


その瞬間、彼の指輪が強く輝いた。


指輪の内側から、聞き覚えのない声が響く。


『記録保持者を確認』


『処刑後の記録改変に関する証言を開始します』


全員が息をのんだ。


カイルは指輪を握りしめたまま、動けずにいた。


そして、声が告げる。


『第一の改変者は――』


光が弾けた。


次の瞬間、声は途切れ、指輪の表面に黒い亀裂が走った。


アステリアが鋭く叫ぶ。


「触れては駄目! その記録は、本人の意思を確認する前に開示されようとしている!」


しかし、もう遅かった。


指輪の奥から、かすかな声が漏れた。


『……彼女を、二度と世界に見つけさせてはならない』


リリアの背筋が凍った。


それは、彼女の存在を守ろうとする言葉ではなかった。


少なくとも、そう聞こえた。


誰かが、前世の自分を世界から隠そうとしていた。


その人物は、今もこの世界にいる。


そして、カイルの指輪は、その意思を記録している。


リリアは、黒い亀裂の入った指輪を見つめた。


真実は、少しずつ近づいている。


けれど、真実に近づくほど、自分が知っていた世界の形は変わっていく。


それでも――。


「私は、最後まで確かめる」


リリアは静かに告げた。


「誰が私を守ろうとして、誰が私を隠そうとしたのか。たとえ、その答えが私の知っている誰かだったとしても」


白い花が、彼女の胸元で淡く輝いた。


その奥に、新しい文字が浮かび上がる。


《記録改変者――第二の意思、接続開始》


《対象:カイル・エルデン》


カイルは目を閉じた。


そして、震える声でつぶやいた。


「……俺は、何をしたんだ」


誰も答えられなかった。


ただ、彼の指輪の亀裂から、もう一つの声が漏れた。


『彼女が選んだ未来を、誰にも知られてはならない』


その言葉が、誰の意思だったのか。


まだ、誰にもわからなかった。


第89話 終


次回、第90話「銀の指輪に封じられた証言」


カイルの指輪から漏れた二つの声。前世のリリアを守ろうとした者と、世界から隠そうとした者は、同じ人物なのか。それとも――カイル自身が、二つの意思の間に立っていたのか。


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