↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神々に捨てられた少女は、世界でただ一人の創世女神になる 「神々が彼女を拒絶した日、世界の新しい歴史が始まった。」  作者: 雨宮ぐみ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
8/112

第8話 最初の裏切り者と、消された約束

第8話 最初の裏切り者と、消された約束


「彼女が守ろうとする人間たちを、彼女自身の手で失わせるのだ」


神々の王、アステリオンの言葉が、白亜の神殿に冷たく響いた。


玉座の前に跪く神官たちは、誰一人として顔を上げない。


彼らは知っていた。


創造主エリシアが目覚めれば、神々の支配は終わる。


そして、リリア・エヴァンジェルが本当の意味で自らの力を取り戻せば、彼らの存在そのものが脅かされるということも。


「人間は弱い。愚かで、欲深く、恐怖に簡単に屈する」


アステリオンは、手のひらに浮かんだ小さな光を見つめた。


そこには、森の奥に身を潜めるリリアたちの姿が映し出されている。


「だが、彼女は違う。自分が傷つくことよりも、他者が傷つくことを恐れている」


アステリオンの唇に、冷たい笑みが浮かんだ。


「ならば、その優しさこそが彼女の弱点だ」


彼が指を鳴らすと、光の中に一人の青年の姿が現れた。


茶色の髪に、穏やかな瞳。


どこにでもいる、ごく普通の人間だった。


しかし、その胸元には、神々に仕える者だけが持つ白い紋章が刻まれていた。


「彼を利用しろ。彼女が信じるものを、彼女自身の手で疑わせるのだ」


「かしこまりました」


青年は深々と頭を下げた。


その瞳には、わずかな迷いもなかった。


――少なくとも、今は。


◇


「……誰かが、私たちを探している」


森の隠れ家で、リリアは突然顔を上げた。


胸の奥が、ひどくざわついていた。


理由は分からない。


ただ、世界そのものが何かを告げようとしているような、不思議な感覚があった。


「また神々の追っ手か?」


剣の手入れをしていたアレンが、すぐに立ち上がる。


「分からない。でも……さっきから、嫌な感じがするの」


「嫌な感じ、ね」


ミラは椅子に座ったまま、腕を組んだ。


「リリアのその勘、今まで何度も当たってるのよね。できれば外れてほしいけど」


「ごめんね」


「謝らなくていいってば。悪いのは追いかけてくる神様たちなんだから」


ミラは頬を膨らませた。


その姿に、リリアは少しだけ笑った。


ここ数日、ずっと胸の中にあった不安が、ほんの少し和らぐ。


自分には、守りたいものができた。


前世では、誰かに嫌われることが怖くて、自分の気持ちを押し殺していた。


けれど今は違う。


失うことが怖くても、誰かと一緒にいたいと思える。


だからこそ――。


「リリア」


レオンの声が、静かに響いた。


「お前の力が反応しているのは、単に敵が近づいているからではないかもしれない」


「どういうことですか?」


レオンは机の上に、一冊の古びた書物を置いた。


黒い表紙には、七つの星が描かれている。


その中央には、刃物で削り取られたような跡があった。


「これは、神々が世界を支配する以前に書かれた記録だ。かつて創造主に仕えた騎士たちが、後世に残したものだとされている」


アレンが眉をひそめた。


「そんな記録が残っていたのか」


「正確には、残されていたというべきだな。神々はこの本の存在を消したつもりだったらしい」


レオンは本を開いた。


古代文字が並ぶページの端には、何度も繰り返し書かれた一文があった。


『最初の裏切り者は、神ではない』


リリアは息を呑んだ。


「……神様じゃ、ない?」


「ああ」


レオンは重々しく頷いた。


「神々が創造主に反旗を翻すよりも前に、彼女の秘密を外部に漏らした者がいたらしい」


「誰が、そんなことを……」


「名前は消されている。ただし、その人物が残した最後の言葉だけは記録されていた」


レオンがページをめくる。


そこには、細い文字でこう記されていた。


『私は、あの方を裏切ったのではない』


『あの方が、世界を失わずに済む道を選んだのだ』


リリアの指先が震えた。


その文章を見た瞬間、頭の奥に鋭い痛みが走る。


視界が揺れ、知らないはずの景色が脳裏に浮かんだ。


白い花が咲く庭。


銀色の髪を風になびかせる少女。


そして、その前に跪く一人の人物。


顔は見えない。


けれど、その声だけは、はっきりと聞こえた。


『どうか、私を恨まないでください』


『あなたが愛した世界を、守りたかったのです』


「――っ!」


リリアは胸を押さえ、机に手をついた。


「リリア!」


アレンが駆け寄り、彼女の身体を支える。


「大丈夫か?」


「うん……大丈夫。今、何かが見えたの」


「記憶か?」


「たぶん。でも、誰なのか分からない。声も、顔も……」


言葉が途切れた。


リリアは自分の手を見つめる。


怖かった。


記憶を取り戻すたび、自分の知らない自分が増えていく。


いつか、そのすべてが今の自分を塗りつぶしてしまうのではないか。


そんな恐怖が、心の奥底に潜んでいた。


「無理に思い出す必要はない」


アレンは、彼女の目をまっすぐに見つめた。


「今のお前が知らないことを、今すぐ知る必要はないんだ」


「でも、知らなかったら……また同じことを繰り返すかもしれない」


「それでもだ」


アレンは迷わず答えた。


「過去を知ることと、過去に従うことは違う。何を選ぶかは、お前が決めればいい」


その言葉に、リリアの胸が温かくなった。


かつての自分なら、誰かの期待に応えようとして、無理にでも記憶を取り戻そうとしたかもしれない。


けれど今は、少しだけ違う。


「……ありがとう、アレン」


「礼を言われるようなことじゃない」


そう言いながら、アレンは彼女を支える手を離さなかった。


その様子を見ていたミラが、わざとらしく咳払いをする。


「はいはい。いい雰囲気のところ悪いんだけど、話を続けてもいい?」


「ミラ!」


「冗談よ、冗談!」


ミラは笑った。


レオンも、ほんのわずかに表情を和らげる。


けれど、その笑顔は長く続かなかった。


書物のページが、誰も触れていないのにひとりでにめくれ始めたのだ。


紙が擦れる音が、静かな部屋に響く。


そして、一番最後のページで止まった。


そこには、これまでの古代文字とは違う文字が浮かび上がっていた。


『創造主エリシアへ』


『もしも、あなたが再び人として生まれたのなら』


『どうか、あの約束を思い出さないでください』


リリアの呼吸が止まった。


「……あの約束?」


次の瞬間、文字の下に新たな一文が現れる。


『あなたが私に託した、世界を終わらせるための約束を』


部屋の空気が凍りついた。


「世界を……終わらせる?」


ミラが呆然と呟く。


「ちょっと待ってよ。世界を創った人が、世界を終わらせる約束をしたってこと?」


「まだ断定はできない」


レオンは書物を閉じようとした。


しかし、その手が止まった。


ページの中央に、七つの星とは別の紋章が浮かび上がっていたからだ。


それは、剣を抱く一人の騎士の姿。


そして、その紋章の下には、ひとつの名前が刻まれていた。


「……そんな、馬鹿な」


レオンの顔から血の気が引いた。


「レオンさん?」


リリアが声をかけても、彼は答えなかった。


ただ、紋章を見つめている。


「この名前は……」


その声は、かすかに震えていた。


「かつて、創造主エリシアを守ると誓った騎士団の中で、最も忠実だった男の名だ」


「それが、どうしたんですか?」


「そいつは――」


レオンは、ゆっくりと顔を上げた。


「神々に反逆した騎士たちを、皆殺しにした男だ」


◇


同じ頃。


隠れ家から離れた森の入口に、一人の青年が立っていた。


茶色の髪。


穏やかな顔立ち。


そして、胸元に刻まれた白い紋章。


彼は手のひらに、小さな水晶を乗せていた。


水晶の中には、リリアたちの姿が映っている。


「対象の居場所を確認しました」


青年が静かに告げる。


水晶の向こうから、アステリオンの声が響いた。


『よくやった。お前ならば、彼女も警戒しないだろう』


「……はい」


『忘れるな。お前が何者であるかを』


青年は目を伏せた。


「私は、神々に仕える者です」


『そうだ。お前は彼女に近づき、信頼を得る。そして、彼女が最も大切にする者たちを、彼女自身の力で傷つけさせるのだ』


「……承知しました」


通信が途切れる。


森には、静寂が戻った。


青年はしばらく水晶を見つめていたが、やがて懐から小さなものを取り出した。


それは、古びた銀色の指輪だった。


表面には、七つの星ではなく、一輪の白い花が刻まれている。


青年は指輪を強く握りしめた。


「……ごめんなさい」


誰に向けた言葉なのか、自分でも分からなかった。


「今度こそ、守りたかったのに」


その瞳に、一瞬だけ深い悲しみが宿る。


だが、次の瞬間には、何事もなかったかのように表情が消えた。


彼は森の奥へ歩き始めた。


リリア・エヴァンジェルに会うために。


そして、かつて交わされた約束を、再び繰り返すために。


◇


隠れ家では、リリアが窓の外を見つめていた。


木々の向こうから、誰かが近づいてくる気配がする。


不思議なことに、恐怖はなかった。


むしろ、懐かしさに似た感情が胸を満たしていた。


初めて会うはずなのに。


名前さえ知らないはずなのに。


どうして、こんなにも――。


「……会いたい」


自分でも驚くほど小さな声だった。


その瞬間、彼女の視界に文字が浮かび上がる。


《原初の記録:新たな反応を検知》


《封印された記憶との共鳴を確認》


《警告――対象人物との接触は、魂の構造に重大な影響を及ぼす可能性があります》


そして、最後に。


《対象人物:識別不能》


《記録上の分類――最初の裏切り者》


リリアは目を見開いた。


扉の向こうで、足音が止まる。


コン、コン。


控えめなノックが二度。


そして、聞き覚えのない青年の声がした。


「突然すみません。旅の途中で道に迷ってしまって……」


穏やかで、優しい声だった。


「どなたか、いらっしゃいませんか?」


アレンが剣に手をかける。


レオンの顔が険しくなる。


ミラは、リリアの手をそっと握った。


リリアは扉を見つめたまま、動けなかった。


なぜなら。


扉の向こうにいる人物の気配が、ひどく悲しげに感じられたからだ。


まるで、長い長い時間をかけて、ようやく帰ってきた人のように。


そして、彼女の胸の奥で、忘れられた記憶が囁いた。


『おかえりなさい、エリシア』


――その声は、誰のものだったのだろう。

*******

次回予告 第九話「優しい訪問者と、偽りの記憶」


隠れ家を訪れた謎の青年。


彼は自らを旅人だと名乗り、リリアたちに助けを求める。


しかし、彼の存在を前にして、レオンは強い警戒を露わにした。


「そいつを中に入れるな」


その言葉の意味を知る前に、リリアは青年の瞳に、かつての自分が失ったはずの景色を見つけてしまう。


彼は敵なのか。


それとも、かつてエリシアが愛した誰かなのか。


そして、最初の裏切り者が隠し続けてきた真実とは――。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。