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神々に捨てられた少女は、世界でただ一人の創世女神になる 「神々が彼女を拒絶した日、世界の新しい歴史が始まった。」  作者: 雨宮ぐみ


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第5話 「森の果てで出会った少女」

第5話 「森の果てで出会った少女」


――誰か、助けて。


暗闇の中で、声が聞こえた。


か細く、今にも消えてしまいそうな声。


誰かに助けを求めているのに、その声は誰にも届いていない。


リリアは、暗闇の中を歩いていた。


足元には何もない。


空も、地面も、光さえも存在しない。


「……誰なの?」


呼びかけても、返事はない。


ただ、遠くに小さな光が見えた。


リリアが手を伸ばすと、その光はゆっくりと形を変えていく。


赤い髪。


小さな身体。


そして、涙に濡れた顔。


そこにいたのは、見知らぬ少女だった。


「お願い……」


少女は、リリアを見つめていた。


「今度こそ、私を見捨てないで……」


「待って! あなたは誰なの?」


リリアが駆け寄ろうとした瞬間、少女の姿が崩れた。


光が砕け散り、闇の中へ消えていく。


「いや……!」


リリアが叫んだ、そのとき。


「――リリア!」


誰かに肩を揺さぶられた。


「起きろ。もう朝だ」


聞き慣れた声。


リリアは、ゆっくりと目を開けた。


「……アレン?」


「ようやく起きたか」


目の前には、少し呆れたような顔をしたアレンがいた。


リリアは身体を起こそうとしたが、全身に力が入らず、思わずよろめいた。


「わっ……!」


「おい、無理するな」


アレンが慌てて支えてくれる。


その腕の温かさに、リリアはようやく自分が現実に戻ってきたことを実感した。


「……私、どれくらい眠ってたの?」


「半日ほどだ。神罰執行体の法則を書き換えた反動だろうな」


「半日……」


リリアは自分の手を見つめた。


あのとき、自分は確かに何かを変えた。


神々に従うしかなかった存在に、自分の意思で選ぶ可能性を与えたのだ。


しかし、その代償は決して小さくなかった。


「……アレン。私、ちゃんとできたのかな」


「何がだ?」


「神罰執行体のこと。あの人を、自由にしてあげられたのかなって」


アレンは少し考えてから答えた。


「少なくとも、あいつは自分の意思で動けるようになった。あとは、あいつ自身が決めることだ」


「……そっか」


「お前が全部の答えを出す必要はない。選ぶ権利を与えたなら、最後は相手を信じろ」


その言葉に、リリアは静かにうなずいた。


前世の自分は、いつも誰かの期待に応えようとしていた。


嫌われないように。


失望されないように。


誰かが望む答えを選び続けていた。


だからこそ、他人が自分で選ぶことの意味を、まだ十分に理解できていないのかもしれない。


それでも。


少しずつ、学んでいけばいい。


自分のために。


そして、いつか誰かのために。


「……ありがとう、アレン」


「だから、礼はいいと言っているだろう」


「ふふっ。じゃあ、これからもよろしくね」


「……勝手に決めるな」


そう言いながら、アレンは否定しなかった。


リリアは小さく笑った。


久しぶりに、心から笑えた気がした。


朝食を済ませた二人は、森の出口を目指して歩き始めた。


森の中は静かだった。


鳥のさえずりも聞こえるし、木々の隙間から差し込む光も穏やかだ。


昨日まで神々に命を狙われていたとは思えないほど、平和な景色だった。


しかし、リリアはどこか落ち着かなかった。


夢の中で見た少女の顔が、頭から離れないのだ。


赤い髪。


涙。


そして、あの言葉。


――今度こそ、私を見捨てないで。


「……アレン」


「どうした?」


「昨日、私が眠っている間に……誰か来たりしなかった?」


「いや。少なくとも、俺が気づいた範囲ではな」


「そっか……」


「何かあったのか?」


リリアは少し迷ったあと、夢のことを話した。


見知らぬ少女が助けを求めていたこと。


そして、まるで自分を知っているかのように話しかけてきたこと。


アレンは黙って聞いていた。


「赤い髪の少女か……」


「うん。私、あの子を知らないはずなのに、なんだか放っておけなくて」


「夢が《創世の理》と関係している可能性はあるな。記憶の封印が一部解けたことで、何かがつながったのかもしれない」


「じゃあ、あの子も昔の私を知っているのかな?」


「それはまだわからない」


アレンは慎重に答えた。


「ただ、夢に出てきた相手が実在するとは限らない。今は、手がかりが見つかるまで待つしかないだろう」


「……うん」


リリアはうなずいた。


そのときだった。


――助けて!


今度は、夢ではなかった。


かすかな悲鳴が、森の奥から聞こえた。


二人は同時に足を止めた。


「今の声……!」


「こっちだ!」


アレンが駆け出す。


リリアも、痛む身体を押して後を追った。


木々の間を抜けた先に、小さな開けた場所があった。


そこには、数匹の黒い魔物に囲まれた少女が倒れていた。


赤い髪。


小柄な身体。


そして、涙に濡れた顔。


リリアは息を呑んだ。


「……うそ」


夢で見た少女と、同じ顔だった。


◇


「グルルル……!」


魔物たちが唸り声を上げる。


少女は木の根元に背を預け、震える手で杖を握りしめていた。


杖の先には、わずかな炎が灯っている。


しかし、その火は今にも消えそうだった。


「来ないで……!」


少女が叫ぶ。


「お願い、もう魔力が……!」


一匹の魔物が地面を蹴った。


「危ない!」


リリアは考えるより先に走り出した。


「待て、リリア!」


アレンの制止を振り切り、少女と魔物の間へ飛び込む。


魔物の爪が振り下ろされた。


リリアは反射的に腕を掲げた。


「《創世の理》――!」


青白い光が弾ける。


しかし、力がうまく発動しない。


身体に残った疲労が、リリアの意識を引きずり下ろそうとしていた。


――駄目だ。


力が、足りない。


その瞬間。


「《フレイム・バースト》!」


鋭い声とともに、炎が魔物を吹き飛ばした。


赤い閃光が森を駆け抜ける。


魔物たちは悲鳴を上げ、木々の向こうへ逃げていった。


「……え?」


リリアが振り返ると、少女が杖を掲げていた。


その杖の先には、先ほどよりも強い炎が揺らめいている。


「はぁ……はぁ……。もう、無茶ばっかり……!」


少女は肩で息をしながら、リリアを見た。


「あなた、何してるのよ! いきなり飛び出してきて!」


「えっ、だって……あなたが危なかったから」


「だからって、自分まで危険な目に遭ってどうするの!」


少女は怒ったように叫んだ。


けれど、その声は震えていた。


リリアは、彼女の目に浮かぶ涙を見つけた。


「……怖かったんだね」


「っ……!」


少女の表情が固まる。


「大丈夫。もう魔物はいなくなったよ」


リリアは、できるだけ優しく微笑んだ。


「私たちはあなたを傷つけたりしないから」


「……どうして?」


「え?」


「どうして、私を助けたの?」


少女の瞳が揺れた。


「私は……あなたたちに何もしていないのに」


リリアは、その問いに少し驚いた。


助ける理由なんて、考えていなかった。


ただ、目の前で誰かが傷つこうとしていた。


それだけだった。


「……困っている人がいたら、助けたいって思うから」


リリアは答えた。


「それじゃ、理由にならないかな?」


少女は、しばらく黙っていた。


やがて、唇を噛みしめる。


「……変な人」


「よく言われるかも」


「絶対、初めて会った人にそんなこと言わないでしょ……」


少女は小さく笑った。


その笑顔を見た瞬間、リリアの胸の奥が温かくなった。


夢の中で、少女が泣いていたときに感じた、あの痛み。


それが、ほんの少しだけ和らいだ気がした。


◇


「私はミラ。ミラ・フェルン」


少女は、少し落ち着いてから名乗った。


「魔法使いを目指して旅をしてるの。……まあ、今はご覧のとおり、魔物に追い詰められてたんだけど」


「私はリリア。リリア・エヴァンジェル」


「リリア……」


ミラはその名前を聞いた途端、わずかに目を見開いた。


だが、すぐにいつもの表情へ戻った。


「そっか。助けてくれてありがとう、リリア」


「助けたのは私だけじゃないよ。あの魔物を追い払ったのは、あなたの魔法だし」


「でも、最初に飛び込んできたのはあなたでしょ」


ミラはそう言うと、リリアの顔をじっと見つめた。


「……ねえ。リリアって、もしかして神殿で何かあった?」


その言葉に、アレンが鋭く反応した。


「どうしてそう思う?」


「だって、あなた……」


ミラはリリアの瞳を見つめた。


「普通の人とは違う魔力を持ってる。さっきの光も、ただの魔法じゃなかった」


リリアは言葉を失った。


ミラは、彼女の力を感じ取ったのだろうか。


「それに、神殿からの通達を見たの」


ミラは表情を曇らせた。


「この近くの町に、神々に反逆した罪人が逃げ込んだって。見つけた者には報奨金を出すって書いてあった」


アレンが低い声で尋ねる。


「その通達には、名前が書いてあったのか?」


「ええ。リリア・エヴァンジェルって」


森の空気が、一瞬で張り詰めた。


ミラは二人を交互に見た。


そして、ゆっくりと息を吐く。


「……やっぱり、あなたがそうなのね」


リリアは、思わず一歩後ずさった。


まただ。


自分の名前を知った人は、みんな離れていく。


神殿の人々も。


かつての自分の人生も。


この少女も、きっと――。


「……怖いよね」


リリアは、俯いた。


「私、神々に追われているの。あなたまで巻き込むかもしれない」


「うん。怖いわよ」


ミラは、あっさりと答えた。


「神々に逆らった人間なんて、普通は関わりたくないもの」


リリアの胸が、きゅっと締めつけられた。


やっぱり。


そう思った瞬間、ミラが続けた。


「でも、あなたは私を助けてくれた」


「……え?」


「自分だって危なかったのに、私を助けようとしてくれた。そんな人を、名前だけで判断したくないわ」


ミラは杖を握り直した。


「それに、私だって神殿にいい思い出があるわけじゃないし」


その声には、かすかな怒りがにじんでいた。


「だから、少なくとも今は、あなたを信じてみる」


リリアの瞳が潤んだ。


信じてみる。


その言葉を、誰かからもらったのはいつ以来だろう。


「……ありがとう、ミラ」


「べ、別に! お礼を言われるようなことじゃないから!」


ミラは慌てて顔を背けた。


「それより、あなたたちも町へ向かうんでしょ? 私もそこへ行くつもりだったの。途中まで一緒に行ってあげる!」


「いいの?」


「いいって言ってるでしょ!」


ミラは少し頬を赤くした。


「……一人で旅をするのも、そろそろ飽きてきたし」


その言葉を聞いて、リリアは笑った。


今度の笑顔は、無理に作ったものではなかった。


◇


三人は森を抜けるため、再び歩き始めた。


先頭を歩くアレンは、相変わらず周囲を警戒している。


その隣では、ミラがリリアに魔法の話をしていた。


「炎の魔法はね、魔力を燃料にして火を生み出すの。でも、ただ魔力を込めればいいってわけじゃないのよ」


「へえ……すごい!」


「でしょ? 私は将来、王都の魔法学院に入るつもりなの!」


ミラは胸を張った。


「そこで一番の魔法使いになって、誰にも馬鹿にされないくらい強くなるんだから!」


「馬鹿にされたことがあるの?」


リリアが尋ねると、ミラの笑顔が一瞬だけ消えた。


「……まあ、いろいろね」


彼女はそれ以上話そうとしなかった。


リリアは無理に聞かなかった。


誰にだって、話したくない過去はある。


それでも、いつか話したいと思ってくれたなら、そのときは聞こう。


そう思った。


だが、その穏やかな時間は長く続かなかった。


森の出口が見え始めた頃。


アレンが突然立ち止まった。


「……全員、伏せろ!」


「えっ?」


次の瞬間、三人の頭上を光の矢が通り過ぎた。


矢は木に突き刺さり、青白い炎を上げて燃え尽きる。


森の向こうから、複数の人影が現れた。


白い鎧。


胸元に刻まれた神殿の紋章。


そして、手にした武器には神聖な光が宿っていた。


「対象を確認した」


先頭に立つ騎士が告げた。


「リリア・エヴァンジェル。神殿の命令により、身柄を拘束する」


騎士たちが一斉に武器を構える。


ミラの顔から血の気が引いた。


「うそ……神殿騎士団?」


「ミラ、下がっていろ」


アレンが剣を抜いた。


しかし、騎士たちは彼を見ても怯まなかった。


「抵抗するならば、同行者も同罪とみなす」


「……同行者も?」


リリアが息を呑んだ。


自分のせいで、また誰かが傷つく。


ミラまで巻き込んでしまう。


その恐怖が、胸の中で膨れ上がった。


「待ってください!」


リリアは前へ出た。


「私が行けばいいんですよね? だから、アレンとミラには手を出さないで!」


「リリア、よせ!」


アレンが叫ぶ。


だが、リリアは止まらなかった。


「私は逃げません。だから……二人は見逃してください」


騎士団長らしき男が、冷たい目で彼女を見下ろした。


「罪人の言葉を信じる理由はない」


彼が手を上げた。


騎士たちの武器が、一斉に光を放つ。


「拘束しろ!」


その瞬間。


「――誰が、渡すもんですか!」


ミラの声が森に響いた。


彼女はリリアの前へ飛び出し、杖を掲げた。


「私の命の恩人に手を出すなら、相手になってやるわよ!」


「ミラ……」


「勘違いしないでよね、リリア!」


ミラは振り返らずに言った。


「あなたが私を助けてくれたから、今度は私が助ける。それだけなんだから!」


杖の先に、鮮やかな炎が生まれた。


その炎は、先ほど魔物を追い払ったときよりも強く、激しく燃えていた。


リリアの胸が熱くなった。


誰かを守りたいと思う気持ち。


誰かが自分を守ろうとしてくれること。


それは、こんなにも心を温かくするのだ。


しかし、神殿騎士団の隊列の奥で、ひときわ大きな魔力が膨れ上がった。


騎士団長が、剣を抜く。


「愚かな選択をしたな。ならば、全員まとめて捕らえるまでだ」


アレンが剣を構え直す。


「……リリア。ミラ。俺の後ろにいろ」


「でも……!」


「今度は俺が守る番だ」


その声は、揺るがなかった。


リリアは唇を噛みしめた。


逃げるだけでは、何も変わらない。


けれど、力を使えば、また世界に負担をかけてしまう。


どうすればいいのか。


その答えを探すように、リリアは自分の手を見つめた。


そして、彼女の瞳に青い光が宿る。


――今度は、三人で。


誰か一人が犠牲になるのではなく。


誰か一人がすべてを背負うのでもなく。


みんなで、この状況を乗り越えるのだ。


リリアが顔を上げた、そのときだった。


騎士団長の背後から、静かな声が響いた。


「そこまでにしておきなさい」


騎士たちが一斉に振り返る。


森の木々の間から、一人の男が姿を現した。


黒い外套。


銀色の髪。


そして、胸元に刻まれた、七つの星を囲む古い紋章。


その紋章を見た瞬間、アレンの顔色が変わった。


「……なぜ、お前がここにいる?」


男はアレンを見つめ、静かに微笑んだ。


「久しぶりだな、アレン・クロフォード」


そして、リリアへ視線を移す。


「そして、ようやく会えた。創世の力を持つ少女よ」


彼は、恭しく片膝をついた。


「私は、かつて神々に反逆した者たちの最後の生き残り」


「あなたを、お迎えに参りました」


リリアの心臓が、大きく跳ねた。


神々に反逆した騎士。


夢の中で見た赤い髪の少女。


そして、自分の過去に隠された記憶。


それらが、少しずつ一つにつながり始めていた。


――けれど、男が次に告げた言葉は、リリアの想像をはるかに超えるものだった。


「リリア・エヴァンジェル」


男は、まっすぐ彼女を見つめた。


「あなたの本当の名前を、お教えしましょう」


「あなたは――」


その瞬間、森全体が青白い光に包まれた。


そして、リリアの視界に、警告の文字が浮かび上がる。


《緊急警告》


《封印領域への外部干渉を検知》


《記憶の強制解放を確認》


《原初の記憶――第三封印、解除開始》


リリアの意識が、再び深い闇へと引きずり込まれていった。


その闇の中で、あの銀髪の少女が待っていた。


少女は悲しげに微笑み、リリアへ手を伸ばした。


『思い出して、リリア』


『あなたが、何を失ったのかを』


――そして。


少女の背後に、燃え上がる世界が現れた。


第五話・終

********

第五話を読んでくださり、ありがとうございます!


今回は、リリアが夢の中で見た赤髪の少女、ミラ・フェルンと出会い、初めて新しい仲間を得るお話でした。


ミラは炎の魔法を使う、少し強気で素直になれない少女。これからリリアとどんな絆を築いていくのか、楽しみにしていただけたら嬉しいです。


そして、ついに現れた「神々に反逆した者たち」の生き残り。


彼はアレンの過去を知っているようですが、リリアの本当の名前とは何なのでしょうか?


次回、第六話。


「封印された記憶と、世界が滅びた日」


リリアの失われた記憶が、少しずつ明らかになります。


ぜひ、続きもお楽しみください!


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