↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神々に捨てられた少女は、世界でただ一人の創世女神になる 「神々が彼女を拒絶した日、世界の新しい歴史が始まった。」  作者: 雨宮ぐみ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
43/112

第43話 第三創造者が守り続けた魂

第43話 第三創造者が守り続けた魂


忘却の塔の地下記録室には、静寂が満ちていた。


剣に刻まれた記録が消えたあとも、リリアたちは誰一人として動けずにいた。


創造主エリシアの魂は、完全には消滅していない。


そして、その魂を保管しているのは――第三創造者。


「……第三創造者は、ずっとエリシアの魂を守っていたの?」


リリアの問いに、セフィルは答えなかった。


彼の胸元に浮かんだ紋章が、かすかに明滅している。


それは第二創造者としての記憶が戻った証であると同時に、まだ彼自身も知らない何かが眠っている証拠のようだった。


レオンが静かに口を開いた。


「守っていたのか。それとも、封じ込めていたのか。そこを確かめる必要がある」


「同じことじゃないの?」


ミラが不安そうに尋ねる。


「違う」


答えたのは、カイルだった。


「誰かを守るために閉じ込めることと、その人が自分で選べるように待つことは違う。……俺は、その違いを知っているはずなのに、何も思い出せない」


彼は銀の指輪を握りしめた。


白い花の刻まれた指輪は、先ほどから温かさを失っていない。


まるで、次に開かれる記録を急かすように。


そのときだった。


地下記録室の最奥で、白い光が灯った。


壁の一部が音もなく開き、その向こうに小さな部屋が現れる。


中央には、透明な結晶が浮かんでいた。


結晶の中に眠っているのは、一人の少女だった。


長い銀髪。


閉じられた瞳。


そして、胸元に咲く白い花。


リリアは息をのんだ。


「この人……」


忘却の塔で見た記憶が、脳裏によみがえる。


剣を振り下ろした自分。


倒れていく銀髪の人物。


そして、聞こえた声。


――あなたは、私を殺した。


リリアは思わず一歩後ずさった。


「私が……この人を殺したの?」


「まだ、決めつけるな」


レオンがすぐに言った。


「記憶は断片だ。お前が見たものが、すべてとは限らない」


「でも……」


「リリア」


アレンが彼女の肩に手を置いた。


「真実を知ることと、自分を罪人だと決めつけることは違う。忘れる必要はない。でも、今の君まで否定するな」


その言葉に、リリアは唇をかみしめた。


自分の中には、まだ知らない自分がいる。


その自分が何をしたのか。


なぜ世界を壊そうとしたのか。


そして、なぜ誰かを殺したのか。


答えを知るのは怖かった。


それでも、目をそらしたままでは前に進めない。


「……知りたい。今度こそ、誰かに隠される前に」


リリアが結晶へ近づこうとした瞬間、白い光が彼女の足元に広がった。


文字が浮かび上がる。


《第一創造者の魂、保管状態を確認》


《魂の閲覧には、第二創造者の同意が必要です》


《記憶の再接続には、第二創造者による真実の告白が必要です》


セフィルの顔から、血の気が引いた。


「……俺の同意?」


「どういうこと?」


リリアが振り向く。


セフィルは結晶を見つめたまま、かすかに首を振った。


「わからない。俺は、この魂を守ると誓った記憶も、封じた記憶もない」


彼の声が震えた。


「なのに……この結晶を見ていると、胸が痛むんだ」


その瞬間、結晶の内部に細い亀裂が走った。


セフィルが息をのむ。


亀裂の向こうから、少女の声が聞こえた。


『セフィル……』


その声は、懐かしさと悲しみを帯びていた。


『お願い。もう、私のために嘘をつかないで』


「……っ!」


セフィルは頭を押さえた。


視界の奥に、映像が流れ込んでくる。


まだ世界が生まれる前。


白い花が咲く、何もない場所。


そこに、幼いエリシアとセフィルがいた。


エリシアは泣いていた。


セフィルは彼女の前に膝をつき、何かを差し出している。


それは、小さな白い花だった。


『約束して、セフィル』


エリシアが言う。


『私がいつか、あの人を取り戻そうとして世界を壊すなら……あなたが止めて』


幼いセフィルは、しばらく黙っていた。


そして、静かに答えた。


『わかった。でも、一つだけ条件がある』


『なに?』


『君が本当に望んでいることを、最後まで聞かせてほしい。君が何を失っても、何を取り戻そうとしても……俺が止めるのは、君の願いそのものじゃない』


映像が乱れた。


次に聞こえたのは、別の声だった。


『その約束を守るためには、君自身が忘れなければならない』


セフィルの表情が凍りついた。


記憶の中で、誰かが彼の胸に手を当てていた。


黒い髪。


黄金の瞳。


第三創造者。


彼女は、幼いセフィルに告げていた。


『君が覚えていれば、彼女は君を頼ってしまう。君が真実を知っていれば、彼女は自分の選択を君に委ねてしまう』


『それでも、俺は……』


『だからこそ、忘れてほしいの』


第三創造者の声は、震えていた。


『彼女を救うために、彼女の選択を奪わないで』


そこで記憶は途切れた。


セフィルは膝をつき、荒い息を吐いた。


「俺は……忘れさせられたのか」


その言葉に、リリアは何も返せなかった。


セフィルは神々の命令に従うために記憶を奪われた。


それだけではなかった。


彼は、エリシアの願いを守るために、自分自身の約束すら忘れさせられていたのだ。


けれど、その約束には、まだ隠された部分がある。


結晶の文字が変化した。


《第二創造者の記憶、一部復元》


《第二の約束、確認》


《第三の約束、未完了》


そして、最後に一文が浮かび上がる。


《第二創造者は、第一創造者に真実を告げなければならない》


「真実って……何なの?」


ミラが小さく尋ねた。


誰も答えられなかった。


そのとき、結晶の中で眠っていた少女の指が、ほんのわずかに動いた。


閉じられていた瞳が、一瞬だけ開く。


その瞳は、透き通るような紫色だった。


『セフィル……』


少女は、かすかに微笑んだ。


『あの約束を……覚えている?』


セフィルは顔を上げた。


「……まだ、全部は思い出せない」


彼は震える手を結晶へ伸ばした。


「でも、逃げない。俺が忘れていたことも、君に隠していたことも……全部、確かめる」


少女の瞳が、再び閉じられる。


結晶は静かに光を失った。


しかし、最後に一つだけ、記録が残された。


《第一創造者の魂、再接続条件を更新》


《告白対象――エリシア》


《告白内容――第二創造者が、彼女に隠した最後の約束》


リリアは、その文字を見つめた。


セフィルは何を隠しているのだろう。


本人さえ忘れていた約束。


第三創造者が、彼の記憶を封じてまで守ろうとした秘密。


そして、エリシアの魂が求めている真実。


その答えは、結晶の中ではなく、世界のどこかに隠されているのかもしれない。


そのとき、地下記録室の壁に、見覚えのない映像が浮かんだ。


暗い部屋。


白い花。


そして、結晶を抱きしめて泣いている第三創造者。


彼女の前には、剣を持った銀髪の青年が立っていた。


青年の紫色の瞳には、深い絶望が宿っている。


『君は、また彼女を一人にするのか』


青年の問いに、第三創造者は答えなかった。


ただ、涙を流しながら結晶を抱きしめていた。


『……それでも、私は守らなければならない』


映像が消える直前、青年が告げた。


『ならば、いつか彼女自身が君を裁く日が来る』


リリアの背筋に、冷たいものが走った。


第三創造者は、エリシアの魂を守っていた。


しかし、それは誰も傷つけない方法ではなかったのかもしれない。


そして、彼女が守ろうとしたもののために、誰かが犠牲になった。


その犠牲者は、まだここにいるのだろうか。


リリアが考えを巡らせていると、遠く離れた神殿の最深部で、黄金の瞳を持つ第三創造者が顔を上げた。


「……セフィルが、思い出し始めた」


彼女は、目の前に浮かぶ結晶を見つめた。


その中には、幼い少女の姿が眠っている。


エリシアの魂。


彼女が、長い長い時間をかけて守り続けてきた存在。


「もうすぐ、あなたは私を憎むでしょうね」


第三創造者は、結晶に触れた。


「それでも……私は、あなたに選んでほしかった」


彼女の背後で、誰かが静かに笑った。


『本当に、それだけか?』


第三創造者の指が止まる。


『君が守りたかったのは、エリシアの魂だけではないはずだ』


彼女は振り返らなかった。


ただ、唇をかみしめる。


「……黙りなさい」


『君が隠している罪も、いずれあの子は知る』


結晶の中で、眠る少女の指が動いた。


そして、第三創造者の頬を、一筋の涙が伝った。


「……お願いだから」


彼女は誰にも聞こえない声でつぶやいた。


「今度こそ、私を許さなくてもいいから……あの子だけは、私と同じ過ちを繰り返さないで」


その願いが誰に向けられたものなのか。


まだ、誰も知らなかった。


第43話・


次回、第44話「第二創造者が忘れた残酷な約束」


セフィルの失われた記憶に隠されていた、もう一つの約束。その約束を知る者は、エリシアの魂を守るために、ある人物を犠牲にしていた――。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。