↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神々に捨てられた少女は、世界でただ一人の創世女神になる 「神々が彼女を拒絶した日、世界の新しい歴史が始まった。」  作者: 雨宮ぐみ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
29/112

第29話 第二契約者の正体

第29話 第二契約者の正体


夜が明けても、空に走った亀裂は消えなかった。


まるで世界そのものに刻まれた傷のように、青白い光が空の彼方まで伸びている。


その下を歩きながら、リリアは何度も空を見上げていた。


「世界の記録を書き換えるって……そんなこと、本当にできるの?」


「神々なら可能だ」


答えたのはレオンだった。


「この世界に存在するものの大半は、神々が管理する法則に従っている。名前、記憶、歴史、生命の循環。それらを記録ごと改変すれば、世界は変わってしまう」


「じゃあ、あの銀髪の少女に関する記憶も……」


「すでに消され始めている可能性が高い」


レオンは険しい顔で続けた。


「だからこそ、俺たちが先に彼女の正体を突き止めなければならない」


リリアは唇を引き結んだ。


神々がそこまでして消そうとする少女。


そして、彼女を知っていたはずのセフィル。


少女の名を呼んだエリシア。


すべてが、自分の知らない過去へと繋がっている。


けれど、焦ってはいけない。


力を使いすぎれば、自分だけでなく、世界まで傷つけてしまう。


リリアはそう自分に言い聞かせ、隣を歩くセフィルへと目を向けた。


「セフィル、具合はどう?」


「問題ありません。命令の紋章が消えてから、頭の中が以前より静かになりました」


そう答えた彼は、少し考えるように視線を落とした。


「ただ……ひとつ、気になることがあります」


「気になること?」


「私の記憶は、失われていたというより、別の何かに覆い隠されていたようなのです」


セフィルは胸元に手を当てた。


「思い出そうとすると、必ず同じ扉が現れます。扉の向こうには、白い花が咲いている。ですが、私がそこへ近づくと、誰かが扉を閉じてしまうのです」


「誰かって……神々?」


「おそらくは。しかし、それだけではありません」


セフィルは、ゆっくりとリリアを見た。


「扉を閉じる者の中に、私自身もいたような気がするのです」


その言葉に、誰もが沈黙した。


自分で記憶を封じた。


そんなことがあり得るのだろうか。


いや、もしそれが本当なら、セフィルは単に神々に記憶を奪われただけの存在ではないことになる。


「一度、確かめてみよう」


アレンが言った。


「記憶を無理に引き出す必要はない。だが、その扉が何なのかを知ることはできるかもしれない」


カイルが指輪を握りしめる。


「僕の記憶も、同じように封じられている。もしかしたら、二つの記憶は繋がっているのかもしれない」


彼の指輪には、白い花が刻まれていた。


その花は今も、かすかな光を放っている。


「なら、僕の記憶から調べよう」


カイルがそう告げたとき、指輪が突然、強く輝いた。


銀色の光が彼の手から溢れ、地面に円形の紋様を描き出す。


その中心に、見覚えのない文字が浮かび上がった。


レオンが息を呑む。


「これは……古代契約文字か!」


「読めるの?」


ミラが尋ねると、レオンはゆっくりとうなずいた。


「断片的だがな。ここに記されているのは、契約の条件だ」


彼は文字を一つずつ読み取った。


「第一契約者――エリシア」


リリアの胸が小さく跳ねた。


「第二契約者――未登録」


続く文字を見て、レオンの表情が険しくなる。


「契約対象……世界の終焉に関する権限」


そして、最後の一文。


レオンは、それを読み上げることをためらった。


「どうしたの?」


リリアが尋ねる。


レオンは迷った末、口を開いた。


「第二契約者は、契約者自身の意志によってのみ、その力を行使できる。いかなる神も、命令によってその意志を変えることはできない」


「神々でも命令できない……」


セフィルがつぶやいた。


それは、神々が最も恐れている存在の条件そのものだった。


だが、文字はまだ残っていた。


最後の一行が、ゆっくりと銀色に浮かび上がる。


――第二契約者の名は、世界の外に記録されている。


直後、指輪の光が消えた。


「世界の外って、どういう意味だ?」


アレンが問いかける。


レオンは首を横に振った。


「わからない。だが、世界の法則に名前を記録されていない存在なら、神々が記録を書き換えても消すことはできないはずだ」


リリアは、はっと顔を上げた。


「それって、あの銀髪の少女のことじゃない?」


「可能性はある」


レオンは慎重に答えた。


「だが、まだ断定はできない。あの少女が第二契約者本人なのか、それとも契約者を生み出した存在なのか。それすらわかっていないんだ」


そのときだった。


セフィルが、突然、胸を押さえてうずくまった。


「うっ……!」


「セフィル!」


リリアが駆け寄る。


彼の瞳から紫色の光が溢れ、周囲の空気が震え始めた。


頭の中に、何かが流れ込んでいる。


失われていた記憶。


閉ざされていた扉。


そして、その向こうにいた人物。


セフィルは、かすれた声でつぶやいた。


「……違う」


「何が違うの?」


「私は……彼女を守るために、記憶を封じたのではありません」


彼の顔が苦痛に歪む。


「彼女を……止めるために……」


次の瞬間、視界が白く染まった。


*


そこは、世界が生まれるよりも前の場所だった。


空も、大地も、海もない。


ただ、無限の闇の中に、一輪の白い花が咲いている。


その花のそばに、銀髪の少女が立っていた。


幼いセフィルは、少女を見上げていた。


『本当に、行ってしまうのですか?』


少年の問いに、少女は寂しそうに笑った。


『うん。私が行かなければ、エリシアがひとりぼっちになってしまうから』


『ですが、あなたがいなくなれば、私は……』


『大丈夫』


少女は少年の頭に手を置いた。


『あなたは、あなたのままでいていいんだよ』


その言葉を聞いた少年は、首を横に振った。


『それでは、あなたを守れません』


『守らなくてもいいの』


少女は、少年の紫色の瞳をまっすぐに見つめた。


『私が何を選んでも、あなたは私の味方でいてくれる?』


『もちろんです』


『たとえ、私が世界を壊そうとしても?』


少年は、答えられなかった。


少女は責めなかった。


ただ、悲しそうに微笑んだ。


『それなら、ひとつだけお願いがあるの』


彼女は少年の胸に、白い花をそっと押し当てた。


『もし私が本当に間違えたときは、私を止めて』


『……あなたを?』


『うん。誰かの命令じゃなくて、あなた自身の意志で』


白い花が光り始めた。


『あなたなら、きっと選べるから』


その瞬間、少年の胸に、見えない鎖のような紋様が刻まれた。


第二契約。


それは力を与えるためだけの契約ではなかった。


少女の選択を、最後まで見届けるための契約だった。


だが、記憶の最後に現れたのは、まったく別の光景だった。


世界が赤く燃えている。


銀髪の少女は、崩れゆく大地の上に立っていた。


その足元には、倒れたエリシアの姿がある。


そして、少女の背後には七柱の神々がいた。


『第二契約者よ』


神々の声が重なる。


『創造主を止めよ』


少年は、少女の前に立った。


その手には、白い花が握られている。


『……私は』


少年の声が震えた。


『私は、あなたを止めたくありません』


少女は、ゆっくりと振り返った。


その瞳には、涙が浮かんでいた。


『それでも、あなたは選ばなければならない』


少女の姿が光に包まれる。


『いつか、私が誰なのかさえ忘れてしまっても』


そして、最後に。


『あなたの心で、答えを見つけて』


*


「――っ!」


セフィルは目を見開いた。


荒い呼吸を繰り返しながら、彼は震える手を胸元に当てる。


「思い出しました……」


リリアが彼の肩を支えた。


「セフィル、何を思い出したの?」


彼は、しばらく答えられなかった。


やがて、紫色の瞳から一筋の涙がこぼれ落ちた。


「私は……第二契約者です」


誰もが息を呑んだ。


「神々が恐れている存在。それは、私だったのです」


セフィルは顔を伏せた。


「ですが、私が何をすべきなのかは、まだわかりません。私はあの少女を止めるために契約した。それなのに、彼女が何をしようとしているのかさえ、思い出せないのです」


「だったら、一緒に思い出そう」


リリアは迷わず答えた。


「あなたがどんな約束をしたとしても、今のあなたがどうしたいのかは、あなた自身が決めていい」


「……私自身が」


「そう。神々の命令でも、昔の契約でもなく、あなた自身の意志で」


セフィルは、じっとリリアを見つめた。


その表情には、まだ戸惑いが残っていた。


けれど、彼はゆっくりとうなずいた。


「ありがとうございます、リリア」


そのとき、カイルの指輪が再び輝いた。


今度は、白い花の中央に小さな文字が浮かんでいる。


――第二契約者、覚醒を確認。


――契約対象の記録を解放します。


そして、最後の一文。


――創造主エリシアの終焉は、第二契約者の選択によって決定される。


「……そんな」


リリアの顔から血の気が引いた。


セフィルは、静かに目を閉じた。


「つまり、私が彼女を止めるかどうかで……世界の未来が決まる」


遠く離れた神々の宮殿では、アステリオンが膝をついていた。


七つの玉座のうち、ひとつはすでに光を失っている。


そして、残る六つの玉座にも、細い亀裂が走り始めていた。


「第二契約者が目覚めた……」


アステリオンは、震える声でつぶやいた。


「ならば、もう時間がない」


彼は最後の封印を見つめる。


その奥から、銀髪の少女の声が聞こえた。


『セフィルは、思い出してくれたんだね』


少女は、どこか嬉しそうに笑った。


『でも、まだ知らない』


その声が、ほんの少しだけ低くなる。


『私が、どうして世界を終わらせようとしたのか』


封印の向こうで、白い花が一輪、開いた。


『そして、誰を取り戻したかったのかも』


リリアは、胸元に手を当てた。


自分と同じ魂を持つエリシア。


彼女を止めるために生まれたセフィル。


神々が隠した、世界の終焉に関する権限。


だが、まだ何かが足りない。


第二契約は、ただ世界を守るためだけのものではない。


もっと個人的で、もっと悲しい約束が、その奥に眠っている。


そしてリリアは、まだ知らなかった。


自分自身もまた、いつかセフィルに選択を迫ることになるのだということを。


第29話・


次回、第30話「創造主が取り戻したかったもの」


第二契約者として覚醒したセフィル。しかし、彼が思い出したのは約束の一部にすぎなかった。


エリシアは、なぜ世界を終わらせようとしたのか。


神々が恐れたのは、彼女の力なのか。それとも、彼女が取り戻そうとした存在なのか。


その答えへ近づくため、リリアたちは封印された記憶が残る「白花の庭」を目指す。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。