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神々に捨てられた少女は、世界でただ一人の創世女神になる 「神々が彼女を拒絶した日、世界の新しい歴史が始まった。」  作者: 雨宮ぐみ


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第24話 神々の中に眠る裏切り者

第24話 神々の中に眠る裏切り者


白い花の中央で、銀色の鍵が静かに回っていた。


その光は、まるで誰かの鼓動のように、強くなったり弱くなったりを繰り返している。


リリアは鍵に手を伸ばしかけ、ふと動きを止めた。


「……待って」


胸の奥がざわついていた。


触れてはいけない。


そう告げる声が、記憶の底から聞こえてくる。


けれど、それは本当に危険を知らせる警告なのだろうか。


それとも、過去のエリシアが何かを恐れて残した記憶なのだろうか。


「リリア、どうした?」


隣に立つアレンが、彼女の顔をのぞき込んだ。


「分からない。でも、この鍵……私が触れたら、何かが変わる気がする」


「なら、無理に触れる必要はない。調べる方法を探そう」


迷いのない言葉だった。


リリアは少しだけ肩の力を抜いた。


かつての自分なら、きっと無理をしていた。


誰かの期待に応えなければ。自分がやらなければ。失敗してはいけない。


そう考えて、怖くても一人で手を伸ばしていただろう。


けれど今は、違う。


「うん。みんなで考えよう」


リリアがそう言うと、ミラが大きくうなずいた。


「そうそう! リリアが何でも一人で背負うのは禁止だからね!」


「禁止って……」


「禁止です!」


ミラは腰に手を当て、きっぱりと言い切った。


その様子に、リリアは思わず笑った。


ほんの一瞬だけ、世界を巡る謎も、神々の陰謀も、遠い出来事のように感じられた。


だが、その穏やかな時間は長く続かなかった。


銀の鍵が、突然まばゆい光を放ったのだ。


七つの光が一斉に揺れ、聖域の壁に無数の文字が浮かび上がる。


「これは……!」


レオンが顔色を変えた。


壁に現れたのは、七柱の神々の姿だった。


彼らは円形に並び、その中央には一人の少女が立っている。


銀色の髪。


透き通るような瞳。


そして、リリアと同じ顔。


エリシアだった。


しかし、映像の中の彼女は、今まで見た記憶とは違っていた。


神々を前にしても、怯えていない。


ただ、ひどく悲しそうな目で、彼らを見つめていた。


『最後に、もう一度だけ尋ねます』


エリシアが口を開く。


『あなたたちは、本当にこの世界を守りたいのですか?』


神々の一人が答えた。


『当然だ。我らは創造主の意思を受け継ぐ者』


『ならば、なぜ人々の選択を奪うのですか』


エリシアの声が鋭くなる。


『なぜ、都合の悪い歴史を消すのですか。なぜ、私が大切にしていた者たちの存在まで、なかったことにしようとするのですか』


その言葉に、神々の間でざわめきが広がった。


そして、一人の神が前に出た。


顔は黒い影に覆われている。


だが、その神が口を開いた瞬間、リリアの全身に鳥肌が立った。


『創造主よ。あなたは、すべてを知っているわけではない』


その声には、聞き覚えがあった。


低く、静かで、感情を押し殺したような声。


リリアは息をのんだ。


「……アステリオン?」


映像はそこで乱れ、消えた。


沈黙が落ちる。


やがて、レオンがゆっくりと口を開いた。


「今の映像が正しければ、アステリオンは最初からエリシアと対立していたことになる」


「でも、アステリオンは七柱の神の中でも、世界を守る立場だったんだよね?」


ミラが尋ねた。


「表向きはな。だが、これまでの記録を考えれば、彼が歴史を改変してきた可能性は高い」


「じゃあ、第二の約束を知っている神も……」


アレンが言葉を継いだ。


「アステリオンかもしれない、ということか」


リリアは首を横に振った。


「まだ決めつけたくない」


全員の視線が集まる。


「アステリオンが何かを隠しているのは確かだと思う。でも、彼が第二の約束を知っていることと、その約束を交わした本人だということは別だよ」


そう言いながらも、リリアの胸には疑念が残っていた。


もしアステリオンが、エリシアの最も大切な秘密を知っているのなら。


彼はなぜ、そこまでリリアを恐れているのだろう。


そして、なぜ今になって第二契約者の目覚めを阻止しようとしているのか。


その答えを探すように、リリアは銀の鍵を見つめた。


すると鍵の先端から細い光が伸び、空中に一つの文字を描いた。


――神殿。


続いて、もう一つ。


――記録保管室。


「神殿に、まだ記録が残っている……?」


レオンがつぶやいた。


「でも、そんな場所に簡単に入れるわけないよね」


ミラの言うとおりだった。


神殿は神々の支配する領域だ。


リリアたちはすでに追われる身であり、正面から乗り込めば、待ち構えている神々と戦うことになる。


それでも。


「行こう」


リリアは迷わず言った。


「第二の約束を知る神がいるなら、その手がかりも神殿にあるはずだから」


「賛成だ。ただし、無謀な突入はしない」


アレンは地図を取り出し、神殿へ続く道を確認した。


「正門以外に、古い巡礼路が残っている可能性がある。まずはそこを探そう」


「その前に、一つ確認しておきたいことがある」


レオンがリリアを見た。


「その鍵が示した記録保管室だが、神々が管理している普通の記録庫とは違うかもしれない」


「どういうこと?」


「神々が隠したい記録を、神々自身の手から隔離するための場所が存在したという伝承がある。もし本当にそこが残っているなら、アステリオンですら、すべてを自由に書き換えられるとは限らない」


リリアは銀の鍵をそっと握った。


その冷たさが、手のひらに伝わる。


エリシアは何かを残していた。


自分がすべてを忘れてしまったときのために。


そして、未来の自分が別の答えを選べるように。


「……ありがとう、エリシア」


誰にも聞こえないほど小さな声で、リリアはつぶやいた。


すると鍵が一度だけ、淡く輝いた。


まるで、その言葉が届いたかのように。


その瞬間だった。


遠く離れた神殿で、セフィルが膝をついていた。


目の前に立つアステリオンは、いつものように冷静な表情を崩していない。


だが、その手元には黒い命令印が浮かんでいた。


「セフィル。命令を伝える」


「……承知しました」


「創造主の継承者が、始まりの聖域で銀の鍵を手に入れた」


セフィルの紫色の瞳が、わずかに揺れた。


「銀の鍵……ですか」


「お前は彼女のもとへ向かえ。そして鍵を回収しろ」


「もし、彼女が渡すことを拒んだ場合は?」


アステリオンは一瞬だけ沈黙した。


「彼女の記憶を封じろ。必要であれば、創世の理そのものを眠らせても構わない」


セフィルは顔を伏せた。


「……かしこまりました」


「それから」


アステリオンの声が、さらに低くなる。


「彼女に、決して伝えるな。第二契約者が目覚めたことを」


セフィルの指先が、かすかに震えた。


第二契約者。


その言葉を聞いた瞬間、彼の脳裏に見知らぬ光景がよぎった。


白い花。


崩れた神殿。


そして、誰かが自分の手を握りながら告げる声。


『あなたにも、選ぶ権利があるのよ』


「……っ」


頭の奥に鋭い痛みが走る。


セフィルはこめかみを押さえた。


「どうした?」


「いえ……何でもありません」


そう答えた彼の手には、いつの間にか小さな白い花びらが握られていた。


この神殿に、花など咲いていないはずなのに。


アステリオンはそれに気づかなかった。


「行け、セフィル。今度こそ、私の命令に従え」


「……はい」


セフィルは立ち上がり、神殿の出口へ向かった。


しかし、その足取りは以前とは違っていた。


命令に従うためだけではない。


確かめたいことがあった。


なぜ自分は、第二契約者という言葉に反応したのか。


なぜ、見たこともない少女の声を覚えているのか。


そして、なぜアステリオンは――その存在を、これほどまでに恐れているのか。


神殿の扉を出る直前、セフィルは手の中の花びらを見つめた。


「……私は、何を忘れているのだろう」


その問いに答える者は、まだいなかった。


けれど、白い花びらの奥で、小さな光が確かに瞬いていた。


神々に仕える使者の中で、もう一つの記憶が目覚めようとしていた。


第24話・完


次回、第25話「命令に背く使者」


神殿へ向かうリリアたちの前に、セフィルが再び現れる。銀の鍵を回収するよう命じられた彼は、リリアを捕らえるのか。それとも、自分自身の意思で別の道を選ぶのか――。


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