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神々に捨てられた少女は、世界でただ一人の創世女神になる 「神々が彼女を拒絶した日、世界の新しい歴史が始まった。」  作者: 雨宮ぐみ


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第103話 指輪の記憶と最後の選択

第103話 指輪の記憶と最後の選択


カイルの指輪に刻まれた文字は、夜明け前の星のように明滅していた。


《保護者の記憶――最終封印解除条件、接近》


「最後の封印……」


カイルは指輪を見つめた。


「これを解けば、俺が何を守ろうとしたのか分かるのかもしれない」


「でも、無理に解く必要はないよ」


リリアは慎重に言った。


「記憶を取り戻すことが、今のあなたにとって正しいとは限らないから」


カイルは少し驚いた顔をして、それから苦笑した。


「君は本当に、誰に対しても選ぶ権利を残そうとするんだな」


「誰かの未来を守るために、その人の今を犠牲にしたくないだけだよ」


その言葉に、アレンが静かに視線を落とした。


かつて彼は、第三の存在を守ろうとするあまり、彼女の意思を代わりに答えてしまった。


もう二度と、同じことはしない。


「カイル。記憶を開くかどうかは、お前が決めていい。俺たちは、その選択を尊重する」


アレンの言葉を聞き、カイルは指輪を強く握った。


「……分かった。俺は知りたい」


彼は顔を上げた。


「何を守ったのか。そして、何を守れなかったのか。それを知らずに、また誰かを守ろうとするのは嫌なんだ」


指輪が輝いた。


銀色の光が床を走り、彼らの足元に一つの光景が浮かび上がる。


そこは、世界創造以前の回廊だった。


白い花が咲く道の先に、一人の少年が立っている。


茶色の髪。


銀色の指輪。


そして、今のカイルと同じ顔。


「俺……なのか?」


記憶の中の少年は、誰かに向かって話していた。


「俺が覚えていたら、きっと君を助けようとしてしまう。君が何を望むのか聞く前に、俺の答えを押しつけてしまうかもしれない」


相手の姿は見えなかった。


少年は続けた。


「だから、俺の記憶を封じてほしい。でも、記録まで消さないでくれ」


しばらく沈黙が続いた。


やがて、相手が尋ねた。


『記憶を失えば、お前は守りたい人のことも忘れるかもしれない。それでもいいのか?』


少年は目を閉じた。


「よくはない。忘れたくない」


その声は、かすかに震えていた。


「本当は、ずっと覚えていたい。でも、俺が覚えていることで、あの人の選択を狭めてしまうなら……俺は、知らないまま待ちたい」


カイルの指が震えた。


「俺は……誰かを守るために、自分の記憶を封じたんじゃない」


彼は、ようやく気づいた。


「自分が勝手に答えを決めないために、記憶を封じたんだ」


その瞬間、記憶の中の少年が振り返った。


顔は見えた。


けれど、その目には今のカイルとは違う、深い悲しみが宿っていた。


「俺は、あの人が選ぶ未来を見届けたかったんだ」


少年の姿が光に包まれる。


「たとえ、その未来に俺がいなくても」


記録が途切れた。


カイルは目を閉じ、長い息を吐いた。


「……そうか。俺は、誰かを守ることだけを望んでいたわけじゃない」


彼は指輪を見つめた。


「その人が自分で選ぶところを、見届けたかったんだ」


第三の存在は、静かに彼の言葉を聞いていた。


「それなら、あなたも選んでいいんだよ」


少女が言った。


「私がどんな未来を選んでも、それを見届けるか、別の道を歩くか。あなた自身が決めていい」


カイルは目を見開いた。


そして、少しだけ笑った。


「ありがとう。俺も、いつか自分の答えを選ぶよ」


そのとき、空間の奥で警告音が響いた。


《世界の成立境界、閉鎖まで残り七時間》


白い空間に黒い亀裂が広がっていく。


セフィルが振り返った。


「時間がない。外側の存在が、記録への接続を順番に閉じている」


「なら、急がなきゃ」


ミラが杖を構えた。


しかし、リリアはすぐに歩き出さなかった。


彼女の視線は、カイルの指輪に向けられていた。


指輪の内側に、小さな文字が浮かび上がっている。


《記録の保護者:カイル・エルデン》


《記録の受領者:未確定》


そして、その下に新たな一文が刻まれた。


《最終記録の閲覧には、保護者自身の意思確認を要する》


カイルは静かに息を吸った。


「俺が守ってきた記録を、俺自身が開くかどうか決めるのか」


「そうみたいだね」


リリアが答えた。


「でも、開かなければいけないわけじゃない。ここまで分かったことだけでも、あなたが何を大切にしていたかは見えてきたから」


カイルはしばらく考えた。


そして、指輪を胸の前に掲げた。


「開く」


迷いのない声だった。


「記録を自分のものにするためじゃない。そこに残された意思を、本人が選べるようにするためだ」


指輪から、眩い光が溢れた。


空中に最後の記録が映し出される。


そこには、白い花を持つ少女と、一人の銀髪の人物がいた。


少女は泣いていた。


「もし、私がいなくなったら……私がここにいたことを覚えていてくれる?」


銀髪の人物は、すぐには答えなかった。


やがて、静かに頷いた。


「覚えている。だが、君が忘れてほしいと望む日が来たなら、その意思も尊重する」


少女は涙を拭った。


「それなら、お願いがあるの」


彼女は白い花を差し出した。


「私が何を望んだのか、残しておいて。でも、私の代わりに未来を決めないで」


銀髪の人物は、花を受け取った。


「約束する」


そこで映像が乱れた。


最後に、少女の声だけが残る。


『世界ができたあとでも、私は自分の意思を選び直せる?』


その問いに答える前に、記録は途切れた。


カイルは、呆然と立ち尽くした。


「この少女は……」


第三の存在は、白い花を握りしめた。


「分からない。でも、今の私にも同じ問いがある」


彼女はリリアを見た。


「私は、世界を創るかどうかだけじゃなくて、創ったあとも、自分の意思を選び直せるのかな」


リリアは、すぐには答えなかった。


世界を創ったあとに、どんな問題が起こるのか。


神々や外側の存在が、彼女の意思を本当に尊重するのか。


まだ、何も保証できない。


だからリリアは、約束できることだけを口にした。


「少なくとも、私たちはあなたの意思を勝手に書き換えない。あなたが選び直したいと思ったとき、その声を聞くために一緒に考えるよ」


アレンも頷いた。


「君が選んだ未来を、俺たちの都合で固定しない」


少女は、ゆっくりと目を閉じた。


「……ありがとう」


その瞬間、指輪の最後の光が消えた。


代わりに、遠くの空間に一つの扉が現れる。


扉の向こうから、世界の外側の存在の声が響いた。


『記録の復元を確認』


『保護者の記憶を確認』


『次段階――記録の受領者を確定せよ』


カイルが顔を上げる。


「受領者……?」


扉の中央に、白い文字が浮かび上がった。


《記録を受け取る者は、記録の内容を知らない者でなければならない》


その条件を見た瞬間、リリアの胸が強く痛んだ。


彼女には、かつての人生の記憶がある。


神々に拒絶された記憶も、創世の理も、エリシアの記憶も。


けれど、そのすべてを知ったうえで、彼女は自分自身として生きると選んだ。


ならば、記録の受領者とは誰なのか。


第三の存在なのか。


リリアなのか。


それとも、まだ姿を現していない誰かなのか。


答えは、扉の向こうにあった。


そして扉の下には、閉鎖までの残り時間が刻まれていた。


《残り六時間》


――第103話・


次回、第104話「記録を受け取る者」


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